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連載/コラム

フィオナ・タン|エリプシス

カテゴリ : O-CHA-NO-MA PREVIEW 

掲載: 2013年09月17日 18:00

ソース: intoxicate vol.105(2013年8月20日発行号)

text : 坂口千秋



遠い眼差しで見る展覧会

「フィオナ・タン|エリプシス」は、オランダ在住の映像作家、フィオナ・タンの国内美術館で初めての回顧展だ。賑やかさや奇抜さとは無縁の、高い映像技術と音響によって詩情豊かに表現する、まさに大人の展覧会である。

タンは自らを「プロの異国人(professional foreigner)」と呼ぶ。インドネシアで中国系の父とオーストラリア人の母の間に生まれ、少女時代をオーストラリアで過ごし、ヨーロッパへ移住。多文化圏を行き来する、生まれながらの旅人だ。西洋と東洋のはざまでアイデンティティを探していた初期の作品から、最近は、不特定多数の個人の記憶と忘却といった、より人の心象を内観するテーマへと変化してきている。

タイトルの「エリプシス」とは、英語の省略符という意味で、映画制作における省略や濃縮のレトリックを指す用語でもある。記号で書くと、…(テンテンテン)。展示室をつなぐ通路の壁には、薄いグレーのシートで、この(…)が目立たずに点在している。見る人の記憶がその余白に介入することで、無数の物語が生み出されていく記しでもある。

今回の作品のひとつで、2009年ヴェネチア・ビエンナーレのオランダ館でも展示された《ライズ・アンド・フォール》は、2枚の縦型スクリーンにナイアガラの滝と女性の記憶を重ねた印象深い作品だ。老いた女と若い女、2人の美しい女性が登場し、カーテンを開ける、着替え、化粧、入浴といった日常のしぐさが断片的に2つのスクリーンを行き来する。2人の関係は明かされず、老女の若い頃の回想か、あるいは赤の他人かもしれない。時おり差し込まれる水のイメージが、全編を一本の大河のようにつないでいく。水は連続性と変化をあらわす重要なメタファだ。追憶の高まりを飲み込むように、流れる水は一気に奈落へ落ちていく。水しぶきをあげながらどうどうと流れる膨大な質量と滝の音が、見る者をフィジカルに圧倒して、なかなか立ち去ることができない。



フィオナタン1
《A Lapse of Memory(記憶のうつろい)》2007年 HDインスタレーション 24分35秒
©Fiona Tan Courtesy of the Artist and Wako Works of Art, Tokyo



一方、イギリス・ブライトンのロイヤル・パビリオン内で撮影された《記憶のうつろい》も、忘却と思い違いをテーマにしている。タンはあるインタヴューで、映画や本に関する自分の記憶がひどく不正確で、その間違った記憶の奇妙な創造物に興味があると語っていたが、19世紀初頭に「西洋から見た東洋」を贅沢に具現化したパビリオンは、それ自体が記憶違いのファンタジーといえるだろう。ヴォイスオーヴァーはタンの声だ。主人公の老人ヘンリーあるいはエン・リーは、穴だらけの記憶を抱えてパビリオンを徘徊する。ドラゴンや鳳凰に溢れる豪華オリエンタルなインテリアが、彼の哀れみをいっそう引き立て、これもまた見入ってしまう作品だ。



フィオナタン2
《Vox Populi Tokyo(人々の声 東京)》2007年 写真 インスタレーション
©Fiona Tan Courtesy of the Artist and Wako Works of Art, Tokyo



そのほか、初期の代表作《リンネの花時計》、年齢や性別の異なる7人のオランダ人の肖像を7時間(!)の映像におさめた《セブン》、8世紀アイルランドの修道士ブレンダンによる航海の伝説を語るサウンドピース《ブレンダンの島》が展示される。遠い伝説からポストコロニアルの記憶、声なき人々の記憶まで、時間と空間を超えたタンの旅は、見ている私たちの眼差しをはるか遠くへと運び去る。また、9月14日からは、ノルウェー、シドニー、東京、スイス、ロンドンで行われた、一般家族のアルバム写真で構成する《人々の声》からシドニーと東京編が加わる。最後の部屋に展示され、遠く旅へでていた私たちの眼差しは、家族の微笑みに迎えられ、ようやく戻ってくることができる。

「時間は弾力に富んでいて、穴をあけたり折り畳んだりすることができる」とタン。はるばる金沢までの旅の間、窓外を眺めた時間もあなたの味方になってくれるだろう。タンの世界では、過去と未来は織物のように折り畳まれている。振り返ることとまだ見ぬなにかを想うこと、2つの遠い眼差しは、実は別のものではなく、同じ時間と記憶の中に、角度を変えて存在しているのだ。



EXHIBITION INFORMATION


『フィオナ・タン|エリプシス』
●8/3(土)ー11/10(日)
【開場時間】10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)チケットの販売は開場30分前まで
【休場日】毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は、翌平日休)
【出品作品】《Seven(セブン)》、《Rise and Fall (ライズ・アンド・フォール)》、《Linnaeus' Floser Clock(リンネの花時計)》、《A Lapse of Memory(記憶のうつろい)》、《Brendan's Isle(ブレンダンの島)》 、《Vox Populi(人々の声)》
【会場】金沢21世紀美術館
http://www.kanazawa21.jp

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