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BABYMETAL 『メギツネ』

連載
POWER PUSH
公開
2013/07/03   18:00
更新
2013/07/03   18:00
ソース
bounce 356号(2013年6月25日発行)
テキスト
文/久保田泰平


暁に照らされた3人をざわめきと喝采が包み込む。眼前に広がる誇り高き戦いに昂りが抑えられないのは、重く猛る轟音のせいだけじゃない。狐が来たりてベビメタる——メギツネの咆哮は嵐の前の騒がしさなのだ!!



BABYMETAL_A



嵐の前ぶれ

狐に取り憑かれているのは、もはや限られた人間たちだけではなさそうだ。2012年10月の渋谷・O-EAST(1200人)、12月の赤坂・BLITZ(1400人)、2013年2月のZepp Tokyo(2700人)、5月の大阪・BIGCAT(850人)、同じく5月のZepp DiverCityにおける2日間3公演(のべ7000人)——BABYMETALが、決して小さくはないハコでのワンマン公演をことごとくソールド・アウトさせてきたのはつまり、そういうことだろう。いま、彼女たちを取り巻く状況は、幅広い層のリスナーを巻き込む、本格的な〈嵐の前ぶれ〉という表現がしっくりくる。



BABYMETAL



メタルの神様である〈キツネ様〉から、アイドル界において〈メタル・レジスタンス〉遂行の使命を命ぜられたSU-METAL、YUIMETAL、MOAMETAL。その3名が世を忍ぶ姿でさくら学院(〈教室エンターテインメント〉をコンセプトに掲げる成長期限定ユニット)の生徒となり、2010年に結成されたユニットが、BABYMETALである(以上、〈設定〉を含んだ解説であることは言わずもがな)。そのデビュー曲“ド・キ・ド・キ☆モーニング”は、翌2011年10月にDVDシングルという形でリリース。重厚なメタリック・サウンドをベースに、ラップ・パートやアイドル然としたラヴリーなメロディーを盛り込んだ同曲は、アイドル・ファンからの反響はもちろんのこと、ローティーンの少女がヘッドバンギングをキメるMVはYouTubeにもアップされ、AKIHABARAやHARAJUKU発のものとはまったく異なる〈Made in Japan〉の音楽として、海外からも注目されたのだった。



BABYMETAL



2012年7月には初のCDシングル“ヘドバンギャー!!”をインディーでリリース。オリコンのシングル・チャートでウィークリー初登場20位を記録する。握手会のようなオプションなしでのこのランキングからして、彼女たちの存在が早くもアイドル・ファンだけに楽しまれるものではなくなってきたことがわかるだろう。そしてこの年は、とにかくライヴで魅せた。アイドル・イヴェントもかなりの数でこなしたが、その他にも、SHOW-YAらと共演した〈WOMEN'S POWER〉や夏の〈SUMMER SONIC〉など、果敢に外向きの〈メタル・レジスタンス〉を敢行。10月には初のワンマンを開催し、〈メタルの神バンド〉を従えた生演奏でのパフォーマンスも披露した。11月にはシンガポールでの海外公演も行っている。〈METAL〉と名乗るだけのことはある本気のサウンドメイキングとシアトリカルなステージは、言うまでもなく、行く先々で熱狂を巻き起こしていくことになった。



BABYMETAL



さらなる狂宴の夏へ!!

人差し指と小指を立てる……のではなく、〈影絵のキツネ〉の形になっているメロイック・サインを突き立てたり、真面目な顔で会話の語尾を〈DEATH!〉と締めたり、さらにはモッシュやヘッドバンギング、スクリーム、ブレイクダウンなどメタルのクリシェやギミックをステージや楽曲にわかりやすく確信犯的に盛り込んだり……というところぐらいまでは、アイデアとして考えつかなくもない。しかし、そもそも〈アイドルとメタルの融合〉をテーマに始まったBABYMETALの音楽は、蓋を開けてみれば往年のパンクやニューウェイヴに限りなく近い革新性に溢れているもので、アイドルどころかメタルの様式美をも痛快に破壊したものとなっている。高い歌唱力を誇るSU-METALのヴォーカルに至ってはエモーショナルでありながらもメタル・マナーではまったくなく、むしろフォークや歌謡曲のように日本人特有の感性に訴えかける佇まいであるし、正統派ガールズ・ポップの品格を保っているとも言えるそんな彼女の歌声とハード&ヘヴィーなサウンドとが交わっていく様は異様であり斬新だ。そして、MOAMETALとYUIMETALが挿む〈合いの手〉も、可愛らしさを通り越して、エスニック音楽のような昂揚感すら与えてくれるもの。ステージ上で見せるフィジカルの高さも並みじゃない。



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2013年1月にメジャー・デビュー・シングル“イジメ、ダメ、ゼッタイ”を放ったBABYMETAL。その後のライヴ/ツアー展開は冒頭に書いた通りだが、そうした現場での熱い狂宴を経て、今回いよいよセカンド・シングル“メギツネ”が届けられた。漆黒の和装を纏って歌われる“メギツネ”は、持ち前の重厚なサウンドに雅楽のフレイヴァーや〈ワッショイ!! ソレソレ!!〉とお祭りさながらの威勢の良い掛け声が盛り込まれた楽曲で、BABYMETALが持つスケール感をよりいっそう、そして大胆に押し広げたもの。古くはサディスティック・ミカ・バンド『黒船』やジャパン『Tin Drum』、ちょっと前だとリンキン・パークがアルバム『Meteora』で聴かせた解釈などを思い出させたりもする〈和洋折衷〉なこの曲は、〈大和撫子〉な風情を窺わせる歌詞の世界や能楽堂でシューティングされたMVも含めて、ワールドワイドなリスナーをも視野に入れているであろう野心とエモーションに溢れた作品だ。メランコリズムとエモーショナリズムを最高沸点で融け合わせたカップリング曲“紅月 -アカツキ-”(通常盤にのみ収録)も白眉で、いずれの曲でもSU-METALのヴォーカルがこれまでになく……艶っぽい。



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さて、“メギツネ”リリースの直後、6月30日に(初ワンマンから9か月足らずで)行われるNHKホールでのワンマンは瞬く間にソールド・アウト。その猛威はもはや止められないし、止まらない。この夏は北海道で行われる〈JOIN ALIVE〉や東京・大阪での〈SUMMER SONIC〉をはじめとする夏フェスにも多数出演が決定。BABYMETALに取り憑かれるリスナーは、まだまだ広い範囲に広がっていきそうである……いや、広がる、ゼッタイ。



BABYMETAL 『メギツネ』 BMD FOX/トイズファクトリー


左から、初回限定キ盤、ツ盤、ネ盤、通常盤
*それぞれ内容が異なるDVDの付いた初回限定盤にはカップリングに“おねだり大作戦”を収録! CDのみの通常盤にはカップリングの“紅月 -アカツキ-”が収録!!