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連載/コラム

第9回:イトウさん編

連載: アイドルのいる暮らし

掲載: 2012年12月06日 15:50

更新: 2012年12月06日 15:50

文/岡田康宏(サポティスタ)



平日のライブ会場やショッピングモールで行われるイベントで、いつも見かける大人の姿がある。けっこういい歳してるけど、この人たちはいったいどんな生活をしているのだろう?

大人のアイドルファンは、アイドルファンであるだけではなく日常を生きる社会人でもある。お金も暇もある大人のオタクには、元気なだけの若者にはない深みと趣きがある。ライフスタイルとしての現場系アイドルファン、大人のオタクの遊び方とは?



今回お話を伺ったのはイトウ(@psycho_joy)さんだ。30代後半、東京・中野ブロードウェイの地下で中野ロープウェイ(http://www.nakanoropeway.com/)という雑貨店を経営している。高校2年の頃、アイドルオタクになろうと決めた彼は20歳で上京し、数々のアイドル現場を回った末に、最後の現場にももいろクローバーを選んだ。“行くぜっ!怪盗少女”発売の翌月にお店を始め、ももクロ@中野サンプラザの10日後にサンプラザの時計台前でプロポーズして結婚し、現在は一女の父。20年来のアイドルファンが辿り着いたゴールとは。



これがアイドルオタとしてのゴールなんじゃないか



今は中野ブロードウェイの地下で中野ロープウェイという雑貨屋さんをやっています。お店を始めてから結婚して、子供もできました。店を始める時点でイベントに行くのを辞める覚悟をしたから、気持ち的にはもう現役だとは思ってないです。ももクロで全部やり尽くした感じがあったんだよね。アイドルを見始めて、イベントに行き始めてからもう20年とか経ってるし、そろそろかなって思ったの。ももクロは画期的だったよ。こっちも本気だったし、向こうもそれを受け入れるだけのキャパがあった。途中で何回もこれがアイドルオタとしてのゴールなんじゃないかなと思うことがあったから。めちゃめちゃ些細なことばかりなんだけど、それで、もうアイドルはいいかなと思って店を始めたんだ。

ももクロは初めて見たときから、これを最後のグループにしようというくらいの気持ちがあったの。飯田橋ラムラで初めて“ももいろパンチ”を見てから、自分が今までやってきたアイドルファンとしての、ノウハウじゃないけど、おもしろかったことを全部やろうと思って。で、実際おもしろかったよね。今でいう〈ガチ恋〉の要素もあったし、ミニコミ作ったり、遠征もあまり行かないタイプだったけど極力行くようにしたし。本気でやったらどこまで行けるのかなと思って。で、結構ゴールみたいなのが見えたところがあって。それで、もういいかなと思ったんだよね。

09年の秋に週刊プレイボーイで〈いま、ライブアイドルが熱い〉っていう特集が組まれて、その扉の写真が池袋アムラックスのももクロのライブ写真だったのね。ももクロが客を煽っていて、それに客が応えている写真。客の顔にはみんなモザイクがかかっているんだけど、一人だけモザイクが外れているやつがいて、それが俺なの。ピストルさんとかも写ってるんだけど、俺だけモザイクなしで、多幸感にあふれた顔で。どうしてくれるんだ、集英社とか思って(笑)。もし俺がどこかの会社の役員で、会社サボってイベント行ったのがバレて、それが原因でクビにでもなったらどうするんだ、とか、そういう笑い話をしてたら、ちょうどそのあとすぐ、“未来へススメ!”のリリースイベントで、「はるえ商店」という名前の、秋葉原の、今は富士そばになってる小さな空き店舗を利用して行われたイベントがあって。

雨が降っていたから傘をさして後ろのほうで見てたら、(高城)れにちゃんのお母さんが寄ってきて「イトウちゃん、見たわよ、プレイボーイ」って。「僕だけモザイクなしで写ってましたよね、もしかしてれにちゃんも見ました?」って聞いたら「れにが教えてくれたのよ」って。「えっ、お家で僕の話してたりするんですか?」って聞いたら「よくしますよ。今日はイトウちゃんが来てたよとか、今日はイトウちゃん来てなかったよとか、話してますよ」って。

そのとき、すぐには気づかなかったんだけど、来てたってのはともかく、来ていなかったのを家で話すのって、すごいことなんじゃないかなと思って。それで、これ以上幸せなことって、実はもうないんじゃないかなって思ったんだよね。その日現場にいないのに、家でお母さんと、「今日は来てなかったね」って話をしてくれたって。しかも、それがれにちゃんではなくて、お母さんの口から語られたっていう信憑性(笑)も含めて、それがひとつのゴールなんじゃないかって思ったの。すごく些細なことではあるんだけど。イベントはずっと行っているわけで、最高の瞬間みたいなのはポツポツあったけど、じっくり考えると、それがいちばん嬉しかったというか、もしかしたらこれがアイドルオタとしての、その先はないくらいの終着点なんじゃないかなと。それが09年の終わりくらいだね。



地下から地上から、おもしろいオタが集まっていた



ももクロはこっちの気持ちと向こうのタイミングが合ってたよね。偶然だけど、良いタイミングでももクロを見られたと思うもん。オタのテクニックみたいなものとして、イベントに行って声援は送るけど、なかなか握手に行かないとか、そういう引きのやつがあるんだけど、それを初めてももクロでやったんだよね。れにちゃんのことをすごく好きになったのが09年の4月で、初めての握手が、8月4日だから。それまでヤマダ電機のイベントはほぼ最前で見てたし、声援したりはしてたけど、握手にはいかないというのを続けて。満を持して、BOXXの芝生のところで、4ヶ月越しの握手をして、次が“ももいろパンチ”のランキング発表の日の大号泣握手で。わりとオタとしての集大成だというのは意識してやってたね。

ももクロは、好きだっていう気持ちもあったけど、どこまで楽しめるかというのもあって、やたらとミニコミを作ったりもしてた。最初は『握手の達人』というミニコミを作って。当時、ももクロは全員握手だったんだけど、あーりんだけがリアクション薄くて、打っても響かないし、全然おもしろくなかったのね。それであーりんと話すときにどんなネタを話せばいいかってことで、「のりピー捕まったね。あーりんは覚せい剤やったことある?」「ありません」「覚せい剤使ったらどうなるかわかる?」「わかりません」「ふわふわだよ~」とか、そういうくだらないネタをたくさん作って。『握手の達人』は仲の良い友人に10部くらいしか配らなかったんだけど、そのうちの一人が「いつか俺はこれのAKB版を作りますよ」って言ってくれて、実際に後に『AKB握手会完全攻略マニュアル』を出版したりしたんだよね。

『握達』の2号では、当時の有安(杏果)の自己紹介がダサすぎるからみんなで考えようってことで、そこで「○○○でー、ありやす!」っていうコール&レスポンスを考えて、有安推しの友達が握手会のときに、ずっと有安にそのネタを仕込んでたの。そうしたらある日、自己紹介に採用されて。初期のももクロのノリってそんな感じで、くまともさんの〈世界のももクロナンバーワン〉(※注)とかが有名だけど、そういうのは無数にある。あのときは地下から地上から、おもしろいオタが集まっていた。まだアイドル戦国時代の前だからね。でも、それだけのオタが集まったのはやっぱりももクロがすごかったからだよね。普通のアイドルだったら、みんなそんなに頑張れない。
*注 くまともさんというファンが始めたとされる、ももクロの“あの空に向かって”の間奏で行われるコール



俺らの方じゃなくて、俺らの後ろにいる人たちに向かって歌い始めた



当時、ももクロはスタッフが足りなかったからか、送り迎えにお母さんが来ていて、しかも毎回来ているオタは100人くらいだったから、お母さんたちもみんなオタの顔を覚えていて、こいつは誰オタで、こいつは誰が好きで、みたいなのを全部わかってるんだよね。他の子の個別握手とか行ったらすぐバレちゃうし、他のメンバーに声援すらしづらい状況だったの。だけど、夏菜子は本当に誰もが応援したくなるような子で、推しは違うんだけど声だけは掛けたくて。(百田)夏菜子の自己紹介のとき、どうしても声援したいから、名前は呼べないけど最後の「おー」だけ言わせてくださいって言って。それで「かなこ~」の伸ばすところだけ声を出していたら、それが今の伸ばすやつになったりとかね。

ただ、俺は“行くぜっ!怪盗少女”があまり好きじゃなかったんだ。曲が好きじゃなくても、距離が近ければまだ大丈夫だったりするんだけど、ちょうど〈怪盗少女〉あたりから少しずつ遠くなり始めて。曲がめちゃめちゃ良ければ、多少距離が遠くても問題なかったんだろうけど、ちょうど少し距離が離れたタイミングで弱い曲が来たから、それで気持ちも離れちゃった。

当時のファンはみんな〈怪盗〉があまり好きじゃなくて、カップリングの“走れ!”の方が好きだった。〈怪盗少女〉って自己紹介ソングじゃない。それが寂しかったんじゃないかな。だって、あそこで歌っていることなんてそこにいるファンはみんな知っていることだから。ももクロって“ももいろパンチ”から“未来へススメ!”まで、すごく少ない人数に見られてたからさ。ももクロが俺らの方じゃなくて、俺らの後ろにいる人たちに向かって歌い始めた感じ。だってイヤでしょ、仲の良い女の子が突然他人行儀で自己紹介を始めたら。これはもう目の前を見ていないなという感じがしたよね。俺は〈怪盗〉から先を見ていないから、どこがどう変わってももクロが売れたのかはよくわからない。ラクーアでやった映画『瞬』のイベントを見て、店を始めて、11月のサンシャイン、4月の(早見)あかりラストのサンプラザ、最後に見たのは東武のポイントライブ。だからZを見たのは一度だけ。



アイドルの曲って、本人を知ると曲が変わる



もともとは親戚のお兄ちゃんがすごい歌謡曲マニアで、その影響で子供の頃から歌謡曲が好きだったの。小学校5年生の時に『夕やけニャンニャン』が始まって、6年の時に渡辺美奈代がソロデビューして、すぐファンになって。中学に入った時にカンペンケースに油性ペンででっかく〈渡辺美奈代〉って書いてて。それで授業を受けてたんだけど、担任の先生に見つかって「伊藤くん、なにこれ? 次の休み時間に来なさい」って相談室に呼び出されたの。ちょうど俺が中学に入学した時に入ってきた若い女の先生なんだけど。

「ちょっと座りなさい。伊藤くん、渡辺美奈代好きなの?」「はい、好きです」「先生実は、前の学校で美奈代ちゃんを教えていたの」って。子供の頃は愛知県に住んでいたんだけど、確かに調べてみたら隣の中学なんだよね。それで、「どんな子でしたか?」「めちゃめちゃかわいいけれど、3年生の頃はほとんど学校に来てなかった。〈美奈代ちゃんの一日〉みたいな密着取材が学校に来て、先生それを見てたよ」「『明星』ですか? それ見ました!」みたいな話をして。そのときに、ああ、アイドルっているんだな、って思って。これまで雑誌とかテレビでしか見たことなかったけど、本当にいるんだ、それも隣の中学にいるって。そのあとに美奈代の曲を聴いたら、それまでとはなんだか違って聴こえて。それが原体験としてある。

アイドルの曲って、本人を知ると曲が変わるんだよね。それがアイドルポップスの一番の醍醐味だと思っていて。楽曲派とか、家で曲だけ聴いて、「いい曲!」とか、そういう聴き方もあるし、俺も中学のときまではそうだったんだけど、本人を知って、握手に行って、その人が自分のことを覚えているとか、自分がその人を生で見て握手したことがあるとかって思うと、曲ってめちゃめちゃ良くなるのよ。で、曲がめちゃめちゃ好きになって、そのあとそれを歌ってるその子に会うと、さらにその子がかわいく見えるようになって。相乗効果でどんどん良くなるし、かわいくなる。アイドルポップスは、その上昇の仕方が無限だから。その半端無さが、ほかのジャンルと違うところだと思ってて。そこが俺の思うアイドルポップスの特色だし、好きなところ。

楽曲だけを聴いている人がどれだけいいって言ってても、本人を知っていて、本人に知られていて、会場に行って目があったらニコッと笑ってもらえる、そういう人が家で聴くと、在宅の人よりも遥かによく聴こえると俺は思ってるの。本人に会わないほうが、もしかしたら音楽的な、冷静な判断はできるのかもしれないけれど、冷静な判断なんかしたってつまらないじゃない。だから、もし会える機会があるなら、なるべく歌っている人と会った方がいい。一見何の変哲もない、しょうもない曲であっても、メンバーが自分のことを覚えていて、自分もメンバーと握手会でしゃべったりしていて、自分のことを向こうが知ってて、向こうのブログを毎日読んで、コメントとかもして。そういう状態でそのコに好きな曲を歌われたらトロトロになるからね。そんな音楽ほかにないでしょ。


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