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第2回:ガリバー編

地方ヲタをやっていると交通費がすべて

連載
アイドルのいる暮らし
公開
2012/06/28   12:30
更新
2012/06/28   12:30
テキスト
文/岡田康宏(サポティスタ)


地方ヲタをやっていると交通費がすべて



それからなりふり構わずいろいろな現場に行くようになって、昨年は年間341現場。現場選びの基準はライブですね。だから、まずはハロプロのコンサートツアーありき。学生の頃は舞台を見に行ったり、展覧会なんかもよく見に行っていたんですけど、ハロプロのステージはその中でもショーとして本当によくできていると思うんですよ。芸術としてもエンターテイメントとしてもすごくよくできているなと思うし、歌やダンスが上手いとかではなくて、作品として没入できる。ハロプロのコンサートツアーの日程は半年先まで発表されているので、それをベースに、ほかのイベントを入れていきます。サイン会や握手会のみのイベントは優先順位としては一番低い。

僕は大阪出身で今も実家に住んでいるんですが、小学校のときに親の都合で海外に住んでいて、中高が大阪で大学は福岡。だから関西弁もないし、自分が関西人という意識もありません。学生の頃から乗り鉄で建築を見る目的でいろいろ旅行をしていました。だから、今流行のノマドではないですけど、元からフットワークが軽いのかなと。

地方ヲタをやっていると交通費がすべてなので、グッズはなるべく買わないようにしています。Tシャツ代の2500円あれば女子流(東京女子流)の定期ライブに入れますからね。かさばるし。サイリウムで自己主張するとかまったく興味が無いし。ちょっとでも余裕があったら交通費に回す。地方ヲタはそういう人が多いですよ。使っているお金は月に20万くらい。家に入れる分以外はほとんどそれに使っているし、それ以外にお金使わないですから。移動は以前は電車が多かったけど、今は夜行バスが多いですね。

東京に来たときは1日3現場が基本。去年は1日6現場が2回ありました。ライブが始まる前に次の移動の時間を調べておいて、ぎりぎりの時間に出て、あとは走ってます。せっかく東京に来たんだからたくさん見ておきたい。これだけイベントが増えている今の状況があってこそですよね。

情報源はTwitterと口コミ。今は、現場に行くと詳しい人がいろいろ教えてくれるんですよね。ガリバーさん、これ知ってますか。時間あるなら、一緒に行きましょうって。そういう情報が一番おもしろいですね。ネットラジオ時代から感じていたことですけど、発信したらその分返って来る。これって当たり前のことなんですけど、普通に生活していたらなかなか実感できないことだと思うんですよ。ねとらじをやっていて、その楽しさに気づいて、Twitterでさらにそれを実感しています。



ひめキュンフルーツ缶との出会い



ひめキュン(※6)は誰かがTwitterでYouTubeのリンクを貼っていて、それではじめて見たんです。最初に聴いたのは「恋愛エネルギー保存の法則」だったんですけど、商店街でゆるい感じでやっていて。そのときは名前にはびっくりしたんですけど、こういうのもいるんだなっていうくらいで。
注*6 「ひめキュン」:ひめキュンフルーツ缶。2010年に結成された愛媛の地方アイドルユニット。地元自治体や商店街、新聞社、専門学校、自動車ディーラー等と連携しているのが特徴。松山を舞台とした主演映画も今年全国公開予定。メンバーは現在5人。ジャパハリネットプロデューサーであった伊賀千晃が脚本家・酒井直行らと地元の活性化のため立ちあげた。伊賀が社長を務める事務所に所属し、姉妹アイドルユニットの「ナノキュン」「フルーツポシェット」が存在する。

それからちょっと時間が空いて、今度は誰かが「Loop&Loop」を貼っていて、これがクソかっこ良かったので一度見てみたいと思ったんですけど、動画の情報だけでは松山まで行く気にはなれなくて。いつか見に行けないかなと思っていたんです。僕はチャットモンチーも大好きなんですけど、ツアーがあると必ず地元の徳島でライブをやるんですよ。そのときもアルバムのツアーで徳島文化会館でのライブがあって、当然、チャットモンチーは夜公演しかやらないから、これはと思って調べたら、ちょうど2011年5月の「恋のプリズン」のリリイベをやっているときで。11時と13時からのイベントがあったので、その日の朝、飛行機で松山に飛んでイベントを2回見てから、徳島まで高速バスで移動しました。それが初めて見たひめキュンでした。

松山のTSUTAYAと高島屋のデパートのイベント会場で初めてひめキュンを見て思ったのは、その圧倒的なビジュアル力。かわいいんですよ。それにびっくりして。これが写真じゃ全然わからないんですよね。それはどのアイドルも一緒なんですけど、その中でも飛び抜けてHPで見る写真と、生で見るビジュアルとのギャップが激しくて。ひめキュンは物販に行ってCDを買うと色紙にサインしてくれるんですけど、誰か一人か全員に書いてもらうか選べるんですよ。初めてで推しも決まっていなかったので、全員サインにしたんですけど、まずは最初に宛名を書いてもらうのは誰かを選ばなくちゃいけなくて。そこの髪の長いあの子みたいな感じで指名したのがあーちゃん(※7)で。
注*7 「あーちゃん」:阿部愛友実。ひめキュンフルーツ缶の初代リーダー。2012年3月10日の定期公演にて脱退。

その後、定期公演にも行きたかったんですけど、やっぱり松山は遠いのでなかなか機会がなくて、次に行ったのが2009年8月の夏合宿でした。あれがすべてですね。夏休みで、オタとひめキュンが瀬戸内海の島に放り出されて、オタ40人くらいに当時のメンバーが8人。1泊2日で1万9800円とめちゃめちゃ安くて。

あまりに安かったので勢いで応募したんですが。フェリーに乗ったらメンバーが普通にいるし、ずっと一緒なんですよ。僕はハロプロから入っているので、まずアイドルとそんな一緒に過ごすのがありえなくて。その距離感に慣れなかったけど、オタもみんないい人たちばかりで、いろいろ話しかけてくれました。メンバーも最初は誰だこいつみたいな感じだったけれど、気が利くメンバーは、自分がぽつんとしていると水鉄砲浴びせてきたりとか、輪に入れるよういろいろ気を使ってくれて。

初日の夕方に野外ライブがあって、学校の校庭みたいなところでやったんですよ。地元の人も見ていってくださいね、みたいな感じで人を島の皆さんを集めて。そうすると、みんな地元の人がひめキュンのことを知っているんですよね。夕暮れから暗くなっていく中でライブがあって、そこで初めて「Loop&Loop」を見て。もう完璧ですよね。

その日の夜は、オタとプロデューサーさんや作曲家の人なんかも一緒に、浜辺で朝焼けが見えるまで飲んだんです。最初のうちは、メンバーが暗闇の向こうのほうで花火をしている声がキャッキャ聞こえてきて。そこで初めてオタの人たちともがっつり話して、はじめてひめキュンのコミュニティをがっつり見させてもらったと感じました。ひめキュンのメンバーだけじゃなくて、スタッフやオタの人たちも含めて好きになっちゃったんですよね。そこで一気に愛着を持ってしまった。

だから、松山に行くこと自体が楽しいんですよ。メンバーだけじゃなくてそういう人達にも会えるし、松山の街も好きだし。松山の風景も、温泉も大好きだし。そこにあーちゃんがいたというのももちろんだけど。それを単体で評価するのは無意味なんですよ。ひめキュンに会いに行くというよりは、ひめキュンのいる街に行く感覚ですよね。松山とその人達と、それら全てが一体として好きになってしまった。それはすごく幸せなことだなと思います。

そこから先は、もっといろいろな人にひめキュンを見て欲しいと。それだけですね。それでずっとひめキュンに通っていたら、いつの間にかひめキュンの人みたいに言われるようになった。僕より昔から見ている人もいっぱいいるんですけど、ちょうど僕が見始めた頃から東京へ進出しはじめるというのもあって、すごくいいタイミングで入っていけたなと。一緒に駆け上がっていく感じを並走できているのは、すごく気持ちが良いし、実際に見に行ってよかったと言われるとすごくうれしい。何よりも自分の好きなモノがどんどん大きくなっていくのがうれしくて。一緒に走っている感じがするんですよね。僕が勝手に思っているだけですけど。



推しを失うという経験がないとオタとして経験値が足りない



とはいえ、あーちゃんが好きだったというのがすべての前提にあるんですよ。だから彼女が今年の3月でひめキュンを辞めてしまって、今はからっぽです。どの現場に行っても俯瞰して見ているんですよ。僕はモーニング娘。では田中れいな推しから入って今は鞘師里保ですけど、だから一度も推しの卒業というのを体験したことがなかったんですよ。初めての卒業。

推しを失うという経験がないとオタとして経験値が足りない、というのはあると思うんです。社会的な生物である人間として、その痛みをこれまで知らなかった。これまでは、ひゃー、楽しい、ってはしゃいでいるだけだった。でも、いきなりある日辞めちゃうとか、プリクラが流出しちゃうとか、そういうのも含めてアイドルじゃないですか。

僕はこれまでそういうのがなかったんですけど、一度それを体験すると全然変わりましたね。今はそれが他人のことであっても、その痛みを感じるようになったというか。それに関わっている人はどんな気持ちでいるんだろうって考えるようになりました。

もちろん、あーちゃんはいて欲しかったけれど、あーちゃんがいなくてもひめキュンは堂々と胸を張って人に勧められる。自分の中でハロプロ以外にそういう核となるものができたのは大きいと思います。ひめキュンのことが大好きだし、人よりも知っている自信がある。DD以外のアイデンティティができた。DDって基本的に楽しいんですけど、どの現場に行ってもそこの濃いオタの人たちにはかなわないし、ライブは楽しいけれど、もっと深い楽しみとかを知らないわけですよ。そういうのの繰り返しというのはどこか虚しい部分があるので。アイドルとの距離感も含めて、ひめキュンにはいろいろなことを教えてもらっていますね。


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