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第29回——ザ・テンプターズ

連載
その時 歴史は動いた
公開
2011/09/17   18:30
更新
2011/09/17   18:30
ソース
bounce 336号 (2011年9月25日発行)
テキスト
文・ディスクガイド/久保田泰平


芸能やスポーツの世界においては、〈宿命のライヴァル〉と呼ばれる存在がしばしばシーンを熱くさせ、歴史にその名を刻んできました。プロ野球で言えばイチローと松坂、プロレスで言えば猪木と馬場、80年代のアイドルで言えば聖子と明菜——60年代、日本の音楽シーンではベンチャーズやビートルズをきっかけに繁殖したグループ・サウンズ=GSが若者を熱狂させていました。ブームの象徴となっていたのは、ジュリーこと沢田研二を擁するザ・タイガース。またそのライヴァルと言われていたのが——タイガースから遅れること8か月、ザ・テンプターズがデビューした〈その時〉から、GSブームはさらにその猛威を振るうことになるのです。

テンプターズが結成されたのは65年。地元・大宮のダンスホールで腕を磨き、やがて都内のディスコでも演奏するようになってめきめきと評判を上げていきました。ある日ザ・スパイダースの田辺昭知にスカウトされた彼らは、67年10月に 忘れ得ぬ君 でデビュー。この曲は作詞/作曲を手掛けたリード・ギターの松崎由治がヴォーカルを取っていましたが、このグループにはもうひとりのヴォーカリストがいました。それが、〈ショーケン〉の愛称で親しまれていた萩原健一。ヴィジュアル面でグループの中心となっていた彼は、どことなく育ちの良さを窺わせるジュリーとは対照的に、不良少年のようなヤンチャさ、野性味でファンを魅了し、〈ジュリー派〉〈ショーケン派〉と言われるほどアイドル人気を二分することになったのです。ショーケンが祈りのポーズで熱唱する 神様お願い! 、松崎お得意のスパニッシュ・ギターが冴える初のチャート1位曲 エメラルドの伝説 、勉強そっちのけで熱狂する少女たちの親に顔向けしたと思しき おかあさん など、本来メンバーが嗜好していたサウンド観とはかけ離れた曲もありながら、数々のヒット曲を送り出したテンプターズ。68年秋にタイガースがクラシカルなコンセプト作『ヒューマン・ルネッサンス』を発表すれば、翌69年2月にメンバーの書き下ろし曲で占めた『5-1=0 ザ・テンプターズの世界』を発表し、タイガースがロンドンでシングルを録音すれば、こちらはメンフィスでアルバムを制作……といった具合に、彼らは音楽面でもタイガースとの良きライヴァル関係を築きながらGSブームを盛り上げていきました。そんな彼らの人気も、ブームの衰退と共に失速し、71年に解散。ショーケンは同年4月に、ほぼ時を同じくして解散したタイガースのジュリー、岸部修三らとPYGを結成して1年ほど活動。その後、俳優業をメインとしながらシンガーとしても多くの作品を残していくのでした。

 

ザ・テンプターズのその時々

 

ザ・テンプターズ『ザ・テンプターズ・ファースト・アルバム』 テイチク(1968)

“忘れ得ぬ君”“神様お願い!”のヒットを経て発表された初作。憧れのローリング・ストーンズ〈レディ・ジェーン〉をはじめ、モンキーズ〈すてきなバレリ〉、ビージーズ〈ホリデイ〉、アニマルズ〈ブーン・ブーン〉などカヴァー曲が大半を占めるアルバムだが、クラブ・バンド時代の雰囲気がかすかに残る熱っぽい演奏が好感触。ショーケンが歌う英語曲はご愛嬌ですけれど……。

ザ・テンプターズ『5-1=0 ザ・テンプターズの世界』テイチク(1969)

“エメラルドの伝説”“純愛”“涙のあとに微笑みを”の先行シングル3曲を除いてリーダーの松崎による書き下ろし。ブルーコメッツやスパイダースなどの老舗ならまだしも、メンバー全員20歳そこそこのグループがそれをやってのけたのは異例。サイケデリック、フォーク、クラシック、ブリティッシュ・ビート ——松崎の好奇に満ちたソングライティング/アレンジのセンスが炸裂する、GS史きっての名盤!

PYG『ゴールデン☆ベスト』 ユニバーサル

GS界の2大アイドル、ショーケンとジュリーをトップに、テンプターズの大口広司、タイガースの岸部修三(現・一徳)、スパイダースの大野克夫と井上孝之(現・尭之)で結成されたスーパー・グループ。ジュリーと並べばショーケンは完全にサブの印象だが、歌唱力ではなく〈味〉で勝負することに開眼したのはこの頃なのではなかろうか?

萩原健一『熱狂雷舞』 Bourbon(1979)

“大阪で生まれた女”でヒットを飛ばし、ショーケンがソロ・シンガーとしてそのスタイルを確立しはじめた頃のライヴ盤。柳ジョージ&レイニーウッドのブルージーな演奏とショーケンの酔いどれた歌いっぷりがたまらなくセクシーだ。ちなみにお気に入りの〈BIGI〉の衣装は、のちに松田優作がドラマ「探偵物語」でまんま真似している。

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