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連載/コラム

平井堅

連載: 360°

掲載: 2011年06月08日 00:00

ソース: bounce 332号 (2011年5月25日発行)

文/高橋道彦



〈変わりゆく変わらないもの〉を表現し続ける平井堅のキャリアを紐解く



平井堅集合_A

あの独特の柔らかい口調に騙されてはいないか。いや、騙すなんていったら語弊があるし失礼だが、なにしろ、喋りが達者だ。ライヴでは喋りすぎて時に墓穴も掘るが、それもまた人柄だと許せてしまう温かさがある。だが同時に、無骨な男だ。我が強い。会って話すとそんな印象も持つ。皮肉屋でひねくれ者と自認もしている。そんな多面的な表情をない交ぜにしながら、平井堅は歌う。

72年生まれの彼は、歌謡曲漬けの子供時代を過ごした。時は80年代前半、松田聖子を筆頭に中森明菜やC-C-B、チェッカーズ、そしてサザンオールスターズなどを夢中になって聴いたという。そんな歌謡曲オンリーだった音楽嗜好が変わりはじめたのは、彼が横浜にある大学に通うようになってからだ。大学ではサザンオールスターズのコピー・バンドを結成し、さらには新宿にあるオールディーズ・ハウスでも歌いはじめる。そこにはジャズやボサノヴァのシンガーもいれば、50年代のオールディーズ、コニー・フランシスなどを歌う歌手もいて、平井はビートルズを担当していた。まったく聴いたことのない曲を毎日のように耳にし、単純に聴く音楽の量が激増していく。そこから徐々に欲が出て、ソウル、例えばスティーヴィー・ワンダーを歌いたくなり、それで店に〈70年代の曲を歌っていいですか?〉と許可をもらい、その時代のソウルなども歌うようになった。彼が歌手として目標にするダニー・ハサウェイの曲にもこうして出会う。平井は20歳になっていた。

平井堅_A1

92年、ソニーのオーディションにおいて7500人に及ぶ応募のなかからファイナリストに選ばれ、翌93年にソニーと契約。以後、1年間は曲作りに専念することとなる。94年にはサラリーマン兼業だった作曲家の山下俊と週末になるとソニーの地下スタジオに籠もり、こつこつと曲を仕上げていく。平井の鼻歌から曲想を広げていくこともあった。こうしてデビュー・シングル“Precious Junk”や第2弾シングル“片方ずつのイヤフォン”をはじめ、95年7月に発表されたファースト・アルバム『un-balanced』に収録される曲を1年近く費やして作り上げていく。日記を綴るクセをつけ、歌詞はひとりで書いた。レコード会社や事務所に大事に育てられたと言える、〈期待の大型新人〉だった。

そして、“Precious Junk”は、三谷幸喜の脚本によるTVドラマ「王様のレストラン」の主題歌に抜擢される。96年12月には“キャッチボール”や“横顔”を含む、ほぼ全曲が平井の自作で、パーソナルな要素が強いセカンド・アルバム『Stare At』をリリース。97年には久保田利伸とコラボレートしたNY録音のシングル“HEAT UP”も発表している。だが、デビュー後の彼の道のりは決して順風ではなかった。PVに使える予算も削られ、なかにはソニー社屋の非常階段で撮ったものも。98年には入魂のシングル曲“Love Love Love”に合わせるようにしてONAIR Okubo PLUSで〈Ken's Bar〉をスタートさせるが、それもまた起死回生を狙う苦肉の策と言えるものだった。セールスにこそ結び付かなかったとはいえ、“Love Love Love”を作り上げたことで、ふたたびまた歌う意欲が新たになったと彼は言う。“楽園”を歌う2年近く前に、彼がすでにそうした気構えを持っていたことは大きなポイントだろう。そして、世紀末的な気分を掬い取った2000年1月リリースのシングル“楽園”は徐々に火が点き、結果的に理想的なロングセラーとなった。だが同曲のPV撮影においても自腹でシカゴに赴くなど、ここに至っても苦労話は絶えない。しかし、曲/詞とも他人の手に委ねたこのナンバーを歌うことで、彼はいま一度、みずからを俯瞰して見つめ直し、一回りスケールの大きなシンガーになった。

平井堅_A2

それ以後は、 現在はEXILEなどを手掛けるプロデューサーの松尾“KC”潔と組んでシングル“why”や“LOVE OR LUST”、アルバムでは『THE CHANGING SAME』(2000年)や『gaining through losing』(2001年)を発表、R&B路線へと舵を取る。だが、彼は本質的にはジャンルに囚われず、みずからが認めるようにシンガー・ソングライター気質の〈歌バカ〉である。それを証明したのが2002年の“大きな古時計”であり、2004年の“瞳をとじて”だった。両曲とも亀田誠治のアレンジだが、ケレン味溢れる亀田の編曲は平井の熱唱をより深く引き立てた。

その一方で、“Strawberry Sex”(2002年)や“fake star”(2007年)、“CANDY”(2009年)、さらには日本的なマイナー調の“哀歌(エレジー)”などもシングルにしてリスナーを煙に巻く。また、例えばジェイミー・カラムに“I Want Be A Pop Star”というジャズ小唄もあるけれど、洋楽や映画からの影響などをそこはかとなく換骨奪胎して提示するのも彼の得意とするところだ。

これまでに何度となく彼は〈良い意味でリスナーの期待を裏切りたい〉と発言してきた。最新シングルで、TVドラマ「JIN-仁-」の主題歌となった“いとしき日々よ”はまさに平井堅節が炸裂する王道バラードだが、このたびリリースされるニュー・アルバム『JAPANESE SINGER』はどんな仕上がりになっているのか。30代最後の年、成熟した歌手として彼が何を歌うのか、興味は尽きない。



▼関連盤を紹介。
左から、中森明菜のベスト盤『Recollection〜中森明菜スーパー・ベスト』(ワーナー)、チェッカーズのベスト盤『THE CHECKERS SUPER BEST COLLECTION 32』(ポニーキャニオン)、ダニー・ハサウェイの73年作『Extention Of A Man』(Atco)

 

▼平井堅のリミックス集『Kh re-mixed up 1』(DefSTAR)

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