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ロシア奏法の伝統を引き継ぐ現代の名手たち

公開
2010/12/24   20:55
更新
2010/12/24   21:02
ソース
intoxicate vol.89 (2010年12月20日発行)
テキスト
text : 伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)

ヴィヴィアナ・ソフロニツキー、アレクセイ・リュビモフ、ニコライ・デミジェンコ


ヴィヴィアナ・ソフロニツキー

ピアニストにインタヴューをすると、ロシア・ピアニズムの話題が多く登場する。これは伝統を担うロシア奏法で、楽器を大きく鳴らし、レガートを大切に、旋律を豊かに歌わせる奏法だとされる。ロシア・ピアニズムには大きく分けて4つの流派があると語ったのは、偉大なるピアニスト、タチアナ・ニコライエワである。

「ロシア・ピアニズムはモスクワ音楽院の伝統的な教育法が支えています。流派はゲンリヒ・ネイガウス、アレクサンドル・ゴリデンヴェイゼル、コンスタンティーン・イグムーノフ、サムイル・フェインベルクの4つ。これら伝説的なピアニストから教育を受けたピアニストが今度は次世代のピアニストにそれを手渡していく。こうして歴史は作られ、伝統が守られていくのです」

4人はそれぞれ個性も解釈も奏法もまったく異なるが、ピアニストとして教育者として歴史に名を残す業績を上げた人ばかり。なかでもリヒテル、ギレリス、ヴェデルニコフ、ザークを輩出したネイガウスを称してウラディーミル・ソフロニツキーがこんな言葉を残している。

「ショパンが生きていたらこのように演奏しただろう」

ソフロニツキーはスクリャービンの演奏で人々をとりこにしたロシア・ピアニズムの継承者で、熱狂的なファンが多かったことで知られる。演奏は「リラの馨しさ」と評されたほど、凛とした美しい響きを持つものだった。そのソフロニツキーの長女、ヴィヴィアナは演奏するたびにセンセーションを巻き起こすフォルテピアノの名手。今回のすみだトリフォニーホールの『ロシア・ピアニズムの継承者たち』の全6回シリーズの第1回では、ショパン・イヤーのフィナーレを飾るべく、マクナルティ製のプレイエル復刻フォルテピアノとマクナルティ制作のグラーフ製の復刻フォルテピアノでオール・ショパンを演奏(12/26)する。ワルツ、マズルカ、ポロネーズなどショパンが舞曲のリズムを用いた作品を多く選曲。作品が生まれた時代を蘇らせる演奏が期待できそうだ。録音でもチェロのセルゲイ・イストミンと共演したショパン作品をリリース、父親譲りの美しい響きと個性的な音世界を生み出している。

このシリーズの第2回(2011/4/23)はネイガウス最後の弟子、ロシア・ピアニズムきっての鬼才と称されるアレクセイ・リュビモフが登場。シューベルトの即興曲集D899とD935と《さすらい人幻想曲》を予定。さらに第3回(2011/6/4、5)にはゴリデンヴェイゼルの流れを汲むドミトリー・バシュキーロフに指導を受けたニコライ・デミジェンコがリサイタルと協奏曲で底力を発揮する。リサイタルにはシューマンとリストが組まれ、協奏曲ではショパンとラフマニノフが演奏される。同シリーズはいずれ劣らぬ個性派が名を連ね、ロシア・ピアニズムの伝統を受け継ぐ奏法をじっくりと聴かせる。まさに「作曲家が生きていたらこのように弾くだろう」という心に残る名演が生まれるに違いない。

『ロシア・ピアニズムの継承者たち』
第1回:12/26(日)ヴィヴィアナ・ソフロニツキー
第2回:4/23(土)アレクセイ・リュビモフ
第3回:6/4(土)&5(日)ニコライ・デミジェンコ
会場:すみだトリフォニーホール
http://www.triphony.com/