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第20回――ラップ歌謡

連載
その時 歴史は動いた
公開
2010/12/13   12:24
更新
2010/12/13   12:25
ソース
bounce 327号 (2010年11月25日発行)
テキスト
文・ディスクガイド/久保田泰平

 

かつて、土曜夜の名物となっていたザ・ドリフターズ主演の人気TVヴァラエティー番組「8時だよ! 全員集合」(69年~85年放映)。数々の有名ギャグを生み出したその番組のなかでも、特に大きなセンセーションを巻き起こし、歴史を動かしたのが、志村けんの“東村山音頭”だった。故郷の民謡をもとに独自のアレンジ/構成で展開されるその曲の見せ場で、「ワァ~オ!」の雄叫びを合図に、身体全体でビートを刻む志村の口から音頭とも歌謡曲ともつかない破天荒な節回しで言葉が乱れ打たれた〈その時〉、日本中のお茶の間は爆笑しながらラップ(のようなもの)と初めて遭遇したのである。時は76年――アメリカで最初のヒップホップ・レコードのひとつとされるシュガーヒル・ギャング“Rapper's Delight”が世に出る3年以上前の出来事だった。

実のところ、“東村山音頭”をラップと捉えていいのかどうかは定かではないが……同じく「8時だよ! 全員集合」から生まれた“ドリフの早口ことば”(81年)や山田邦子“邦子のかわい子ぶりっ子(バスガイド篇)”(81年)、吉幾三“俺ら東京さ行ぐだ”(85年)、シブがき隊“スシ食いねェ!”(86年)など、80年代初頭から歌謡曲の範疇で頻出しはじめたラップという唱法が、まずはコミカルなニュアンスで大衆に受け入れられていったことを考えると、その源流のひとつをドリフに見るのもあながち間違いではないだろう。

ランDMCのブレイクに伴って〈ヒップホップ〉なるものの概念が輸入されてきた80年代半ば頃からは、正攻法でラップ表現を究めようとするアーティスト(いとうせいこう、高木完ら)がクラブ・シーンで台頭しはじめるが、一方では田原俊彦の“It's BAD”(85年)、C-C-B“ないものねだりのI Want You”(86年)といった〈ラップ歌謡〉がヒット・チャートを賑わせ、ラップは歌唱法としてお茶の間に浸透していった。こうして独特の解釈を含みながら歌謡曲はラップという技法を呑み込んでいくものの、90年代半ばに大きな転機を迎えることとなる。その象徴は、小沢健二とスチャダラパー“今夜はブギー・バック”、EAST END×YURI“DA.YO.NE”。94年に発表されたこの2曲の大ヒットによって日本のヒップホップ/日本語ラップの位置付けが明確化されると、ユニークな勘違いを孕んだ〈ラップ歌謡〉は徐々に減少していった。近年は嵐やAAAらによって正攻法のスタイルが披露されるなど、ごく普通に歌謡曲(=J-Pop)に採り入れられる唱法となったラップだが、ボブ・サップ“SAPP Time!”(2003年)やさかなクン with 山口瑠美“さかな de ラップ”(2004年)など、時折コミカルな役割で用いられるあたりは、やはり出自ゆえ……なのだろうか。

 

ラップ歌謡のその時々

 

ザ・ドリフターズ 『ドリフだョ!  全員集合(青盤)』 EMI Music Japan

“東村山音頭”以前から“ドリフのツーレロ節”などJB'sばりの録音物を世に残してきた彼らだが、志村加入後は“ディスコばあちゃん”(未音源化)やテディ・ペンダーグラス“Do Me”をトラックのモチーフにした“ヒゲのテーマ”など、ソウル通として知られる彼の趣向を反映させた演し物が目白押しなんだ~ねぇ。

VARIOUS ARTISTS 『ラップ歌謡 フォローしてちょうだい』 Pヴァイン

本文で述べた通り、始まりが始まりだけに珍品奇品が非常に多い日本のラップ・ミュージック。それら歴史の隅っこを突いて編まれたコンピレーションが本盤である。MCハマーと似ているということで企画されたMCコミヤ(コント赤信号の小宮孝泰)による“U Can't Touch This”の超クセ球日本語カヴァー“ケンタイキ”をはじめ、爆笑の向こう側に作り手の本気度が見え隠れする名演が多数収められている。

VARIOUS ARTISTSラップ歌謡 あの娘にカセットあげよう』 Pヴァイン

上記作品の姉妹盤。こちらにはシック“Good Times”を引用したクラシック・チューン“邦子のかわい子ぶりっ子(バスガイド篇)”(演奏はスペクトラム)のほか、野村沙知代の傲慢なラップがたまらなくソウルフルな“SUCH A BEAUTIFUL LADY”、〈めちゃイケ〉でもお馴染みになった小島あやめ“あやめのドレミ”を筆頭に、新旧の珍盤を取り揃えている。笑っちゃうけど笑えないのは両盤共通で。

GEISHA GIRLS 『THE GEISHA GIRLS SHOW -炎のおっさんアワー』 フォーライフ(1995)

松本人志と浜田雅功によるユニットの“Grandma Is Still Alive”は、〈世界の坂本龍一に曲書いてもらって全米デビューする!〉という松本のテキトー発言から実現してしまった曲で、お笑いと上等なダンス・ミュージックを最高沸点で繋いだ奇跡的な作品。志村でラップに触れた世代の回答……かも。

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