グディングス・リナが世界の〈音楽〉と〈料理〉のお皿2枚使いで贈る〈音食同源〉コラム、ついに最終回!!

大勢の人が出入りしている東京は、海みたいだと思う。そこに新しい住人が一人増えても、一滴の色水を海にたらすように一瞬でまぎれてしまう。そこにはちょっぴり、あるいはたっぷりの解放感と淋しさがあるかもしれない。
わたしは東京で生まれて育ったから、見渡す限りとは言わないまでも、親しみは至るところにある。街角を曲がればブルマー時代からの知り合いに遭遇してしまうこともある。確かに淋しさは少ないかもしれない一方で、解放感を味わうこともない。たとえ実家を飛び出して一人暮らしをしても、乗る電車を変えても、海的な分母にまぎれた感じがしたことは一度だってないのだ。東京に暮らし続ける理由を探す必要がない気楽さの一方で、選んでいる意識や強い動機もない。これはこれなりに、東京人の不自由さのような気もしてくる。だからせめてもの気分転換に、世界中の知らない街にまぎれこんでは土地の食べ物を味見し、ここに暮らせるだろうかと夢想し、インスタントな解放感やホームシックを感じていたのかもしれない。
ところで、東京らしい料理ってなんだろう。もんじゃ、深川めし、どぜう等々。江戸文化が外食文化のせいか、どれも家で食べないものばかり。そんななか、厳密な郷土料理ではなくとも心底懐かしさを覚える食べ物を考えてみたら、わたしにとってはお稲荷さん、これ以外に浮かばなかった。わたしの父は混血ゆえか人一倍和風好みで、食後の定番のおやつはおせんべいとみたらし団子、そしてお稲荷さんであった。夜に外をうろつけない子供のわたしにとっては、父に〈お稲荷さん買いに行こう〉と誘い出されるのはずいぶん楽しみだった。老舗デパートの裏にひっそりと続く商店街。そこに緑ののれんの古い製菓店があり、手作りのお菓子屋なのに20時くらいでも平気で開いていた。5個詰めで200円程度だったと思う。白いビニールに入れられた包みをぶらさげながらの夜の散歩。その時間帯は、道中で同級生に会うことはほとんどない。そんななんとも小さな解放感のために、わたしはその散歩を楽しみにしていたような気がする。
いままでご愛読ありがとうございました!
お稲荷さんのぼんやりレシピはいつものブログで!
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RECIPE お稲荷さんといっしょに堪能したい、今月のDelicious Dishes!!!
山下達郎
『IT'S A POPPIN TIME』 ARIOLA JAPAN(1978)
70年代や80年代の東京を思うとき、その東京は自分の知らない都会のきらきらをまとってる。ペーパードールがピンクのシャドウで影踏みしたりする街に行きたくて、何度も何度も聴いてしまう。
鎮座DOPENESS
『100%RAP』 W+K Tokyo Lab/EMI Music Japan(2009)
昨今、誰より伸びやかに、粋にシンガー・ソングライティングしているのは、彼のようなラッパーなんじゃないかと思う。この連載にも通じる食べ物ラップ“モグモグ”、聴いてみて!
G.RINA
『漂流上手』 ANGEL'S EGG(2005)
気もそぞろ、あなたを探してるふりして/いつだってわたしはわたしを探してた――育った街のこと、恋が壊れた街めぐり、その他諸々、上手く漂流できない自分を鼓舞するタイトルで綴りました。
PROFILE
グディングス・リナ
ゴッタ煮ビート音楽を作り出すマルチ・クリエイター。カヴァー集『The Nightbird』(ビクター)も大好評! 現在はニュー・アルバムの準備をしているとのこと。最後に、「歌やDJのほうでも、またお会いしましょう! やさしあやしいレシピと、書きこぼしアレコレはブログにて!!」