NYがいつからクールでヒップなロックを生み出す音楽都市になったかは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドあたりまで話を遡らなければならないので割愛する。が、ギャング・ギャング・ダンスや来春に新作を控えた!!!など、現在のシーンを象徴するような〈雑食性豊かな踊れるサウンド〉の礎が築かれたのは70年代末であり、その立役者こそ78年に設立されたZEである。
レーベル設立者であるイギリス人のマイケル・ジルカとフランス人のミッシェル・エステバンの頭文字から名付けられたZEは、ポスト・パンクの混沌とニューウェイヴの勃興に揺れるNY(あるいはパリ)の地下シーンから次々と特異な逸材を一本釣りしていった。ジャズとパンク・ロックにチャルメラを加えたようなジェイムズ・チャンスや、IQ165にして脱力ディスコを披露するクリスティーナ、フェイクな陽性ラテン・ポップを奏でるキッド・クレオールなどなど、彼らはジャンルや国境を易々と跳躍するフットワークとセンスと軽薄さを兼ね備えており、それは同時にパンク・ロック、ディスコ、ジャズ、ワールド・ミュージックほか、さまざまな音楽ジャンルをすべてブチ込んで怪しいチャンプルーにしたような、特殊なレーベル・カラーともなった。つまりZEは、人種の坩堝であるがゆえに平然と異文化を吸収し、とめどなく猥雑化する魔都NYの映し鏡でもあると言えよう。
85年にレーベルとしての機能を一度凍結させたものの、2002年より運営を再開。設立30周年を受けてカタログが立て続けに日本盤化されるこの機会に、ZEのサウンドがいかにNY的で、その祝祭めいた魅力がいまだに古びていないかを、ぜひ多くのリスナーに体験してもらいたい。
▼レーベル・コンピを紹介。