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第32回 ─ 〈ミック・ザ・ナイト〉

連載
Bar YAMAGA
公開
2009/08/12   18:00
ソース
『bounce』 312号(2009/7/25)
テキスト
文/〈Bar YAMAGA〉のバーテン

憧れのアーティストたちといつもの酒場で出くわして――武藤昭平、勝手に深夜がれの妄想話はまだまだ続く……

 27時。怒髪天の増子直純、エルヴィス・コステロ、そして俺、武藤昭平でテーブルを囲みながら相変わらず飲んでいる。増子に呼ばれたドアーズのジム・モリソンはカウンターで一人潰れかけている状態。コステロがミック・ジャガーをこの場に呼んでいるということを知らされ、増子と俺は驚いた。「おお、天下のミック・ジャガーだってよ。凄いね~、コステロ。こんな安酒場に呼んじゃうなんてさ~」。そう言う増子に合わせて俺も一言「ミック・ジャガーって、イギリスの国から〈ナイト〉って称号を叙勲されたんでしょ? そんな高貴な人が〈Bar YAMAGA〉に来るなんて信じられないっすよ。流石コステロさん。〈ロックの殿堂入り〉した人は違うな~」。するとコステロが応える。「いやいや、そんなかしこまることはあらへんで。ミックはんはただの気のいいオッサンやから」。

 そんな会話の最中、店に一人の男が現れた。コステロが男に声をかける。「よお、ミックはん! こっちこっち!」。その声に導かれ、こちらにゆっくりと笑顔でやってくる男……ミック・ジャガーだ。「やあ、コステロ元気かい?」「もちろんです」。コステロをはじめ、増子も俺も立ち上がってミックを迎える。そしてコステロ「ミックはん、紹介しますわ。怒髪天の増子君と勝手にしやがれの武藤君」「どうも、はじめまして!」。そう言った増子と俺に対してミックはとても紳士的な態度で手を差し出した。「はじめまして。ミック・ジャガーです」。さらにコステロが続けて「じゃあ、これで全員やな。ま、とりあえず飲みましょか。ミックはんは何飲みます?」「ああ、俺は酒を飲まないから紅茶でももらおうかな。アールグレイをひとつ」「あれ? ミックはん酒止めたん? いつから? みんな飲んでるんやから付き合ってや!」「ハハハ。コステロは相変わらず勧めるのが上手だな。でも、とりあえず紅茶をくれないか」。というわけで、ミックは紅茶で乾杯をすることに。改めてコステロがミックに訊く。「ホンマに酒飲まへんの?」「ああ、酒は止めたんだ」。そう言うミックにコステロが切り返す。「いやいや、ミックはん。帰る頃にはベロベロにしたるから、覚悟しいや。よしみんな、盛り上がっていこう」。

……武藤昭平、あくまでも妄想の話。

深夜の妄想盤

ELVIS COSTELLO 『My Aim Is True』 Stiff/Demon(1977)
流石はパブ・ロック・シーンから出てきただけあって、コステロさんは本当にお酒を勧めるのがお上手で! いやらしい話、若々しくてエネルギッシュなロックンロールを満載したこのデビュー作を店でかけると、客単価がグンと上がるんですよね~。

THE DOORS 『The Doors』 Elektra(1967)
もしも~し、大丈夫ですか? 店に来てから約2時間、酒を飲む以外はうつろな目で宙を見たままほとんど動かないジムさん。きっと彼の頭の中には、暗くて重たくて幻想的な、まさにこの初作で聴けるような音がぐるぐるぐるぐるぐるぐる……と回っているのでしょう。困ったものです。

PROFILE

武藤昭平
ジャズとパンクを融合させたオリジナルなサウンドで人気の伊達男音楽集団、勝手にしやがれのドラマー/ヴォーカリスト。昨年末のワンマン・ライヴを収めたDVD「勝手 at 九段 ~2008.12.11. you don't know what "LIFE IS..." at 九段会館大ホール~」(tearbridge)も大好評。8月19日(水)にはタワレコ30周年を記念した初のソロ・シングル“至福の空~NO MUSIC, NO LIFE.~”をリリースするとのこと。最新のライヴ情報などは〈www.katteni-shiyagare.com〉でいますぐチェック!!