希代のエンターテイナーにして、ヒップホップの未来を担うラッパー、サイプレス上野の月刊連載! 日本語ラップへの深~い愛情を持つサイプレス上野と、この分野のオーソリティーとして知られるライター・東京ブロンクスの二人が、日本語ラップについてディープかつユルめのトークを繰り広げます。今回取り上げるのは、NORIKIYOのファースト・ソロ・アルバム『EXIT』。

●今月の名盤:NORIKIYO 『EXIT』 KSR(2007)
神奈川を拠点に活動するラップ・グループ、SD JUNKSTAのメンバーとして知られるNORIKIYOのファースト・ソロ・アルバム。豊かな表現力でブルージーな日常を綴り、リリシストとしての非凡な才能を存分に発揮。本人だけでなく、SD JUNKSTA全体が注目を集める契機となった作品。(bounce.com編集部)
ブロンクス「上ちょ(サイプレス上野)とキー君(NORIKIYO)が初めて会ったのっていつ頃なの?
上野「最初はイヴェント〈HARVEST〉ですかね。『homebrewer's vol.2』の時点ではまだ会ってなくて。後から〈あのコンピの曲は(スリック・リックの)『Behind Bars』方式*1で録った〉って教えてもらって〈かっけえなあ〉って思ったんですよ」
*1 スリック・リックは『Behind Bars』を獄中でレコーディングした。
ブロンクス「もともとAMEちゃん(AMES*2)と上ちょが友達だったんだよね?」
*2 グラフィティー・ライター。SD JUNKSTAらも在籍するクルー、SDP所属。
上野「高校生の頃、よくいっしょに遊んでたんですよ。で、SD JUNKSTAが出てる〈HARVEST〉に遊びに行ったら、AMEちゃんがSDを紹介してくれて。キー君が〈“女喰ってブギ”聴いたよ! 超良かったよ~〉みたいに言ってくれて、嬉しかったっすねえ。そこから、いつの間にか仲良くなっていった感じですね」
ブロンクス「AMEちゃんがキーマンだね。ちなみに、DJ GORIといっしょにマイアミ・ベースをかけまくるSD PATROLというDJチームを結成している俺の相棒でもある」
上野「俺らのロゴと、アルバムの中ジャケのグラフィティーも描いてもらってます。AMEちゃんはもともと、俺の友達が同じ高校に通ってたんすよ。で、茅ヶ崎のTing A Ringってクラブでいっしょにイヴェントをやったり。当時はCYBERTEKの服とか着てた印象があるな」
ブロンクス「ミスター・キキもいっしょの高校でしょ」
上野「ミスター・キキ(爆笑)。俺の初ライヴはミスター・キキといっしょですからね。俺はTitle-Bってグループで出てたら〈お前、日本語ラップ詳しいの?〉みたいに話しかけられて仲良くなって。朝まで飲み明かした。まあミスター・キキのことを知っても意味ないかもしれないけど(笑)」
ブロンクス「SDPのマスコット・キャラクターのピトシは、確かミスター・キキのミックステープでデビューしてるんだよ(笑)」
上野「ミックステープって伝説の『OGAR DICE』ですか? へええ。俺らもあのテープに曲入れてるんすよ。そう言えば、当時キキは全身KING OF DIGGIN'*3で固めてたんですけど、横浜BAY HALLのイヴェントに行ったら、司会者がミスター・キキを〈こいつがK.O.D.P.*4……〉って紹介しはじめて。その途端、客がウワーッて前の方に押し寄せちゃったんですけど、司会が〈……のフリーク!!〉って」
*3 MUROによるアパレル・ブランド/レーベル。
*4 MUROが率いているクルー。
一同「(爆笑)」
上野「で、〈ミスター・キキ! アーンド・ララー!!〉って」
ブロンクス「ララ! ヒップホップ界のキキ&ララ。名前がファンシー系だね」
上野「それで会場中がシュンとしちゃって。俺ら、柵から転げ落ちながら腹を抱えて笑いましたよ」
ブロンクス「伊豆の秘宝館とかが楽しめる人だったら、キキ&ララは押さえておいてほしいよね(笑)。しかし、話がどんどんキー君から遠ざかっていっちゃうな(笑)」
上野「まあでも、キー君に辿り着くまでは、これくらい話さないといけない」
ブロンクス「そうだね。それくらい、上ちょとキー君が出会うまでにはいろんな下地があったってことだよね。で、いざ出会ってみたら苗字がいっしょだったという。今度出るINCREDIBLE BEATBOX BANDの啓君のソロ・アルバムで〈W上野〉が初お目見えでしょ?」
上野「そうですね。昔からW上野でなんかやろうって話はしていて」
ブロンクス「キー君よりも上ちょの方が正式なリリースは先なんだよね」
上野「そうですね。『ヨコハマジョーカーEP』が2004年なんで」
ブロンクス「SD JUNKSTAは〈HARVEST〉に出てたから、同期は韻踏(合組合)とMSCって思ってたんだけどさ、上ちょたちを含めて、みんながちゃんとCDを出してるのに、SDはCD-Rばっかで銀盤のCDをなかなか出さなかった。CD-Rを300枚とか500枚とか焼いて、ジャケをカラーコピーして、ライヴの前にみんなで内職したり。それだったら、普通にCDを1,000枚作った方が安いんだけど(笑)。そこで〈これはもう本当にヤバいだろう〉って焦りはじめたところで、口火を切ったのがキー君だったんだよね」
上野「で、〈CONCRETE GREEN〉*5に“IN DA HOOD”とか“23時各駅新宿”が収録されて……」
*5 SEEDAとDJ ISSOのミックスCDシリーズ。
ブロンクス「それくらいの時期から、『EXIT』を作りはじめてたんだよね。俺がすごく覚えてるのは、SEEDA君の『花と雨』が出た頃に、キー君は10曲近くリリックを書き直してるんだよ」
上野「そうなんすか!?」
ブロンクス「キー君が言ってたんだけど、いまのシーンの最前線っていうのは、スキルはもちろんだけど、それ以上にリリックの深さで更新されてるんじゃないかと。で、キー君は『花と雨』を聴いて、自分がリリック書いてる間にまた最前線のハードルが上がっちゃったから書き直すって言ってた。みんなが何となく普段思ってることに的確な言葉を当てはめて、リリックに落とし込むのがアーティストなわけで、他人が一回言っちゃったことを真似して言っても、新たな発見っていうか、フレッシュさはないからね」
上野「すげえなあ……」