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第17回 ─ シーンの風向きを変えたワルいやつら~SCARS『THE ALBUM』

第17回 ─ シーンの風向きを変えたワルいやつら~SCARS『THE ALBUM』(3)

連載
サ イ プ レ ス 上 野 の LEGEND オブ 日 本 語 ラップ 伝 説
公開
2009/06/03   16:00
更新
2009/06/03   17:49
テキスト
文/東京ブロンクス


今月のスナップ:被ってるのはもちろん、自身の〈WONDER WHEEL〉キャップ!

ブロンクス 結果的に、最初思ってたより評判は相当良かったんじゃないですか?

佐藤 思ったよりかは評価された。技術的なこととかで、もっとダメって言われるかと思った。

ブロンクス でもヘタウマって言うのは簡単だけど、例えばマイクアキラ君とかはちょっと違いますよね。アキラ君は、四街道ネイチャーの頃のラップを聴いてないと難解ですらあるけど、SCARSは初めて聴いた人にも通用する。そこが特殊だと思うんすよ。

佐藤 うん。I-DeA君もA-THUGに関しては何も言ってないと思う。STICKYとbay4kには相当厳しかったけど。

ブロンクス 確かに当時カン君が「レコーディング中に何回も首絞めようかと思った」って言ってましたからね(笑)。

上野 やっぱI-DeA君がいるのといないのとでは全然違いますからね。

ブロンクス ラッパーがいっぱいいるけどプロデューサー主導の制作っていう。そういう流れができたのも、SCARSの影響がでかいんじゃないかな。

上野 確かに。それまではラッパー主導っていうか、プロデューサーは曲を出すだけで、指示とかしなかった。

ブロンクス その感じもアメリカっぽいんだよね。

上野 あと、なんだかんだアルバム・トータルで聴いてましたよね。後半の“LOVE LIFE”とかぶっ飛ばされたもんなあ~(笑)。

ブロンクス ちょっと凝り固まったヒップホップ観を持ってるやつは、この曲のトニー君の好き放題ぶりにやられて欲しい。これが笑えるか笑えないかで、21世紀のヒップホップが肌に合ってるかどうかがわかる(笑)。

上野 A-DOGとA-THUGで分かれてるのがまた良かったすねえ。

ブロンクス まあ流行とかに関係なく、自分に正直にってことだよね。どんな場所でも自分を貫いてやってれば、誰かが語り残してくれて伝説になる。ひとつひとつはくだらないことかもしれないけど……。

上野 そういえばSCARS、〈蝕〉のときのライヴが良かったすよねえ。途中で停電になった。

ブロンクス 水漏れした日?

上野 そうっす。SCARSがやってた時に電気が落ちて、復旧しても結局ダメで。らしいっちゃあ変だけど、簡単にはライヴを観れないぞ、みたいな。

ブロンクス やっぱ選ばれた人たちなんだろうね。あと、向こうのヒップホップにはめちゃめちゃ詳しかった。それはデカイと思うんだ。〈PO〉とか〈POPO〉(警察)って言葉を日本で流行らせたのはSCARSだと思う。

佐藤 あと〈ビルディング〉も早かった。

上野 〈イン・ダ・ビルディング〉。そうだ! ジブさん(ZEEBRA)とかも言ってましたけど、みんなが言い始めたのは絶対SCARSの影響ですよね。

ブロンクス それは結局、USの新譜をちゃんと聴いてたかどうかの違いだと思うんだけど。歌詞の意味も含めてちゃんとわかってたってことの証明だよね。

佐藤 〈みんなはニーヨとか聴くけど俺が好きなのは(トニー・)イエイヨー〉ってフレーズがその辺を表してるよね。

ブロンクス まさに(笑)! でもほんと、この辺は言葉にすると陳腐だから聴いて欲しい。あの衝撃はすごかったからね。ハードコア・ラップで大爆笑できるという(笑)。

上野 そこが昔ながらのワルいラップとは違ったんでしょうね。ユーモアがあるというか。〈外人ぶってるわけじゃないけど外人と取り引きしてるんだYO〉とか。マジであれはやられたな~(笑)。

ブロンクス 言語感覚なんすね。リズム感もBES君とSEEDA君以外はスタンダードだと思うし。

上野 あと、クールでしたよね。俺たちもそうだけど、集団になるとワッショイワッショイって感じで熱くなっちゃうじゃないですか。

ブロンクス まあでもほんと、いろんな側面がある人たちだからね。『THE ALBUM』だけじゃなくてSEEDA君の『花と雨』や〈CONCRETE GREEN〉に収録されてる各々の曲もちゃんと聴いて、初めてSCARSの本質の輪郭が見えてくるんじゃないかな。

上野 ですね。そうしないと、あの時の強引に流れが変わった感じはわからない。

ブロンクス 売り上げとかは下がってきた時期だったけど、量より勢いというか。その結果、興味なさそうにしてた先輩たちもどんどん降りてきたし。

佐藤 A-THUGは日本語ラップの影響を受けてない最後のラッパーだと思うよ。ZEEBRAとかに会っても「あ~俺テレビで観たことありますよ」とか平気で言いそう(笑)。

上野 日本語ラップの歴史を知らなくても日本語ラップはできるという。

ブロンクス 昔は先輩たちのリリース・ペースに合わせてたけど、こうやって、とにかくどんどん出してった方が評判も上がってくって、みんなが気付いた。

上野 そこっすよね。ミックスCDでもなんでもいいから。絶対そうだと思いますよ。

ブロンクス サイクルを早めていったのは、SEEDA君とかSCARSの功績だよね。全体の売り上げ枚数が減っていくなかで、出す枚数を増やしていったのは、絶対いいことだったはず。

上野 SEEDA君まわりとか、ずっとなんかやってんなって雰囲気があった。〈CONCRETE GREEN〉から出てきたやつらがずっと出し続けているという。

ブロンクス いままで金のためじゃねえとか言い続けてきたけど、どうせ日銭を稼がなきゃいけないんだから、だったらラップで稼ぎたいじゃんっていうのがおおもとにある考えだよね。

上野 仕事としてラップをやろうって意識の人が増えたのかも。ほんとねえ、2年前のライヴのDVD、完成させないでほったらかしておいてる場合じゃねえんだよな……。こないだリキッドルームでやったワンマン・ライヴで、みんな「欲しい!」って手を挙げてたのに〈お蔵入り宣言〉までしちゃって(笑)。

ブロンクス 幻のライヴ映像が奇跡の発売!ってことにしちゃえば大丈夫でしょ。俺もこれから毎日SCARS聴いて仕事しようかな(笑)。

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