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第76回 ─ ミズノマリ

連載
SPOTLIGHT!
公開
2009/05/21   10:00
更新
2009/05/21   17:43
ソース
『bounce』 309号(2009/4/25)
テキスト
文/岡村 詩野

優しく耳を刺激するエレガントな歌声に、恋をせずにはいられない!


  大貫妙子や吉田美奈子らが担ってきたシティー・ポップの歌姫の席に、最終的に座るのはいったい誰だろう?と、ときどき考える。ソフィスティケイトされたメロディーと都会的なアレンジ、粋な風合いの上で漂う、心地良く甘くちょっと気品のある感触の歌声。さて、あなたなら誰を思い浮かべるだろうか。

 私なら、間違いなくこのミズノマリを推す。すでにparis match(新作も間もなくリリース予定とか!)のヴォーカリストとして10年近いキャリアを持つ彼女は、ゲスト・シンガーとしても実に多くの場でその歌声を披露してきた。なかでも、小西康陽がプロデュース/監修したコンピ『うたとギター。ピアノ。ことば』でのミズノは、あのアルバムにポップスの持つ凛々しさと洗練をしっかりと落とし込んでいた。そんな彼女の資質はここに届いた初めてのソロ・アルバム『mariage』(マリアージュ)で改めて確認できる。

  7曲入りの本作には、筒美京平の曲に古内東子が歌詞を付け、冨田恵一がアレンジした“恋をする”をはじめ、堀込高樹(キリンジ)による“春の嵐”、西寺郷太(NONA REEVES)と片寄明人の共作曲“悲しいことじゃない”、そして、小西康陽による“結婚しようよ。”など、恐ろしくレヴェルの高い楽曲がズラリと並ぶ。いずれも一見、簡単に口ずさめるようだが、ミズノでないと決して歌えないような複雑さを持った曲ばかり。なのに耳に届く時には、もうポップス以外の何ものでもないラヴリーさを放っているのだ。スウィング・アウト・シスターのコリーン・ドリュリーのように、技術もあって表現力もあるけどカジュアル。そんな境地に立てるのは、現在この女性しかいない。少なくとも『mariage』を聴いたいま、私はそう断言したい。