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第176回 ─ 〈Sgt. Pepper's〉をレゲエ化したのはどこのどいつだ!?

新発見がたくさん詰まったESAS流〈Sgt. Pepper's〉は、いろんな角度から思い思いに楽しむのが大正解!

連載
360°
公開
2009/05/07   17:00
更新
2009/05/07   17:50
ソース
『bounce』 309号(2009/4/25)
テキスト
文/石川 貴教


  イージー・スター・オール・スターズが今回掲げたお題は、ビートルズの67年作『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』! 〈コンセプト・アルバム〉の先駆け的存在といわれている名盤で、〈アルバム〉というフォーマットの新しい可能性を提示した歴史的な一枚でもありますよね。当時のアルバムはシングル曲がたくさん入ったレコード、それ以上でもそれ以下でもなくて、アルバム中の1曲1曲が意味のある存在として機能するように最初から意図的に制作されるなんてことは皆無に等しかったのですから。

 そんな名作を丸ごとカヴァーしたのがこの『Easy Star's Lonely Hearts Dub Band』です。ディキシーランド・スタイルを採り入れるなど、実はいろいろなアレンジの楽曲がグチャグチャに混在しているオリジナルよりも、サウンド面では統一感あり。何せ〈レゲエ〉でまとめられたカヴァー作品ですから、それも当然なんですが(しかし、マティスヤフを迎えた“Within You Without You”だけはやはりと言うべきか、異彩を放っている。タブラ使いの原曲が持つインド・マジックに見事かかってしまったようで……)。

  で、肝心の内容は実にぬるめな良い湯加減なんです。適度にパンチは効いているのだけれど、ゴリゴリじゃない。スムースでポップ。思うに、ヘヴィーでエッジのあるルーツ・ロック・レゲエ的なプロダクションではオリジナルの持つ良い意味での混沌とした雰囲気にそぐわなかったんじゃないでしょうか。随所で光るダブワイズも含め、ここではすべてのサウンドが良い感じのほっこり感を演出しているのです。

 なかでも、“She's Leaving Home”からロバート・ワイアットを思い出させる“Being For The Benefit Of Mr.Kite!”を挿んで、“When I'm Sixty-Four”までの流れが良い。定番リズム〈Sleng Teng〉〈Heavenless〉を使いながら心地良くロックしてくれるのです。また、マックス・ロメオが歌う“Fixing A Hole”はボブ・マーリーの“Natural Mystic”を思い出させるアレンジに料理。これが暗示的なリリックにもピッタリはまっていて、レゲエとの意外な相性が良さが発見できる内容に。で、それこそがこのアルバムのおもしろいところ。単なるカヴァーではない、人によってさまざまな楽しみ方ができるナイスな一枚に仕上げられています。

▼『Easy Star's Lonely Hearts Dub Band』にゲスト参加したアーティストの作品を紹介。

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