時に〈黄金期〉とも称される90年代のヒップホップ。その時代の作品が有していたようなブラックネスを、彼はれっきとした個性として自分の作風にしかと刻み込んでいる。かつてはMonorisickを名乗り、現在はDJ Deckstreamとして活動する彼のことだ。
Deckstreamが日本のヒップホップ界におけるトップ・プロデューサーの仲間入りを果たせた(よね?)理由はひとえに、90年代のNY産ヒップホップに通じるスムースかつファットなサンプリング・ビートを披露してきたからだろう。もちろん、時に4つ打ちトラックを調理してみせる彼でもあるし、m-flo周辺などでのポップな仕事ぶりによって世間に存在感を示したのは確かな事実だが、必ずしもそういった音像ばかりが彼の持ち味ではない。いかにもヒップホップらしいネタ使いを頻出させるビート作法と、サウンド全体から立ち昇るダスティーでラフな雰囲気には確実に、〈あの時代〉のヒップホップのザラついた魅力が宿っている。それはDeckstreamの次の発言からもわかるはずだ。
「ロード・フィネスの『The Awakening』に誘われる形でヒップホップにのめり込んで、以降はしばらくDJプレミアの音に耳が留まっていました。もっとも影響を受けたのは、やっぱりプレミアですね。ギャング・スターの“Next Time”はいまでも大好きな曲です」。
黒くてディープなヒップホップ・ビーツに夢中になったヘッズ期を経て、DJ、そしてトラックメイカーになったDeckstreamの名は、初のアルバム『Deckstream Soundtracks』(2007年)のヒットによってさらに広まることに。「ビート作りは、仕事以前に趣味です」と、当人はあくまで自然体のまま音楽と向き合っているようだが、そんな彼のサウンドが日本を飛び出して、徐々に海外で評価されるまでになったのだから素晴らしいではないか。彼に向けられる期待感は日増しに、どんどん大きくなっている。
そんな状況のなかでリリースされた、2枚目のオリジナル・アルバム『Deckstream Soundtracks 2』。彼がこの新作に定めたコンセプトは、ズバリ〈無償の愛〉なのだとか。
「若干クサいんですが、今作の制作中に結婚したこともあって、アルバムのテーマは〈無償の愛〉なんです。愛といっても、男女間の恋愛以外にもいろんな形があると思う。今回は参加してくれたアーティストたちそれぞれに、さまざまな形の愛を表現してもらっています。最たる聴きどころは、やっぱりモス・デフとの共演曲ですね」。
そのモス・デフ以外にも、今作には前作に引けを取らないほど豪華で強力なゲスト陣(ほぼ海外勢)が参加している。TLCのT・ボズ、ナイス&スムース、サブスタンシャル、そしてL-Universeら、Deckstream自身が昔からファンだった、もしくはかねてから親交のあった面々だ。いずれの客演ぶりにもDeckstreamは至って満足していると言うが、いつか共演したいミュージシャンについて訊くと彼は自信を込めてこう話す。
「モス・デフ、ナズ、コモン、Q・ティップが自分にとっての4大ヒーローなので、残る3人と共演するのが目下の目標ですね。それ以外だと、国内では宇多田ヒカルさん。国外ではエリック・クラプトンと演ってみたい。意外とおもしろい作品ができると思います」。
さらには、こんな野望めいた夢まで飛び出したぞ。彼の名前が真にワールドワイドに認知される日も近いのかもしれない。とにかく、決して期待を裏切らない頼もしい男なのだ、Deckstreamは。
「時代に流されない音楽を作っていきたいのはもちろんのこと、国籍や人種を問わず誰にでも〈カッコイイ〉と認識される作品を生み出したいですね。そしていつか、グラミー賞を獲りたいです(笑)」。
▼Deckstreamの思い出盤。
▼『Deckstream Soundtracks 2』に参加したアーティストの関連盤。

サブスタンシャルの2007年作『Sacrifice』(QN5)