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第13回 ─ 10年目の邂逅~THA BLUE HERB『STILLING, STILL DREAMING』

第13回 ─ 10年目の邂逅~THA BLUE HERB『STILLING, STILL DREAMING』(2)

連載
サ イ プ レ ス 上 野 の LEGEND オブ 日 本 語 ラップ 伝 説
公開
2008/12/11   14:00
更新
2008/12/11   18:26

ブロンクス (笑)、でも、聴かず嫌いしてる人は、オレら以外にもいっぱいいたよね。

古川 確かにそうだね。同業者で「聴かない」「なんか嫌い」っていう人は多かったイメージがあるね。当時を振り返っても。まず最初に熱狂的なファンがついたっていうイメージがあるかなぁ。

ブロンクス 古川さんはけっこう早い時期に好きだったんですか?

古川 いや、オレは遅いんだよ。遅いって言うか、君らに比べれば早いけど(笑)。『STILLING, STILL DREAMING』が出たのが98年10月で、オレが好きになったのは翌年の5月。アルバムは買ってはいたけど、聴いてなかったの、ずっと。で、99年のゴールデンウィークがけっこうエポックな時で、色んなライヴが都内であったんですよ。SOUL SCREAMの『Positive Gravity』のリリース・パーティーがあったり、MUROさんとD.I.T.Cのイヴェントがあったり。そのとき、THA BLUE HERBは〈六本木CORE〉でライヴをしていたんだよね。

ブロンクス あっ! 森田(貴宏)*2くんが監督してビデオ「藷演武」になったライヴだ。あれは持ってた。
*2 日本を代表するプロ・スケーターであり、映像作家。

古川 その時に「blast」の編集者とライターが色んなイヴェントに散って、みんなで報告し合ったんだよ。それでTHA BLUE HERBを観てきた人が「ヒップホップのライヴとは思えない、すごいものを観た」みたいなことを言ってて。それでようやくこのアルバムを初めて聴いたのかな。オレはメディアの耳で、ライターをやってる立場の人間として聴いたわけだけど、そうするとやっぱり耳の痛いことをたくさん言ってるわけですよ。

ブロンクス わかるな~(笑)。

古川 で、これはヤバいなぁと思って。彼らにメールを送ったの。それもちょっとおかしな話なんだけど(苦笑)、「blast」を含む当時のメディアの彼らの扱いにオレは相当憤っててさ。「〈blast〉が無視してたのはホントにおかしいと思うし、いちヒップホップ・ライターとして申し訳ない」っていうメールを勝手に送りつけた(笑)。で、そのメールに返事が来てたんだけど、文字化けしていて見れなかったんだよね。

一同 (爆笑)。

古川 何が書いてあるのか、まったく分からない。それで、99年の9月に彼らが〈Yellow〉でライヴをするために東京に来た時に「メールした古川です」って挨拶して。そしたら「あのメール、檄文だったね!」ってBOSSが言ってくれて。それでいろいろ話しながら、「いつか分からないけど、必ず取材させてくれ」って約束して。それで、その年の10月に自腹で札幌に行って、2日間くらいBOSSくんの家に通ってインタヴューした。ともかくオレは最初「申し訳ない」って言う気持ちがすごいあったんですよ。

ブロンクス なんですかね。オレらも、どこかにそういう気持ちがあって、自分のなかでちゃんと評価し直すためにも、今回古川さんを呼んだっていう(笑)。

古川 当時、地方で黙殺されてたアーティストっていうのはいたはずなんだけど……それはやっぱり、現実的にはメディアはフォローしきれないわけで。ただ、彼らは作品自体で、「(スルーしていて)申し訳ない」と思わせるだけのクオリティーがあった。

上野 確かに。

ブロンクス それにしても「去年のよりも、“証言”の続きが聴きたい/東京への用件はわずかそれくらい(“RAGING BULL”)」ってラインは凄いっすよね。

上野 それ昨日、RYUZOくんも言ってましたね。「“証言”の続きが聴きたい」って。ボソッと言ってて(笑)。

一同 (笑)。

ブロンクス 当時は本気でムカついてたけど。

古川 そうなんだ。やっぱムカつくんだ。なるほどね。

ブロンクス ムカつきますよ。特に(Mummy-)Dくんのラップとか相当好きだったから。

上野 あれ、“ウワサの真相”の?

古川 そうそう“ウワサの真相”ですな。最初はインタヴューで、BOSSが「RHYMESTERは好きだけど、オレの好きなヒップホップではない」って言って。それに(RHYMESTERが)返してっていう。その前にRHYMESTERは〈デモトピア〉*3で“悪の華”を紹介したりとか。
*3 ラジオ番組「ヒップホップ・ナイト・フライト」の中でRHYMESTERが担当していたデモテープ紹介のコーナー。

上野 それ、士郎さん(宇多丸)がすごい言ってましたよ。こないだ会った時も「オレは好きだから紹介してんのになんなんだよ?」って(笑)。

古川 “耳ヲ貸スベキ”のDさんのラインで「北の地下深く/技磨くライマー」っていうのはBOSSのことを言ってるって話もあるよね。

ブロンクス ああ~そうなんだ!! 今回の連載で色んな人のわだかまりがとれるといいっすね(笑)。

古川 10年経ってか。長いわだかまりだなぁ。

ブロンクス 野党と与党の関係じゃないけど、東京と他所の土地のシーンの当時の状況を考えれば、軋轢は起こるべくして起こったんだと思いますよ。いまだったらそれぞれの道でやってるし、メインストリームはどことか、特にないじゃないですか。まぁ、サボってるヴェテランは別にして、RHYMESTERとBOSSくんは、どう考えてもお互いを認めざるを得ないと思うし。

上野 全力疾走してるもの同士。

ブロンクス まぁ、あのタイミングで誰かが東京のシーンにものを申すことが必要だったんだよ。TOKONA-Xもそうだったし。