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第163回 ─ 真のジャジー&メロウ・ヒップホップを求めるなら……深く潜れ!

連載
360°
公開
2008/12/04   06:00
更新
2008/12/04   18:39
ソース
『bounce』 305号(2008/11/25)
テキスト
文/出嶌 孝次

 〈ジャジー・ヒップホップなんてクソ食らえ! 甘美でメロウなだけの音楽にはもう飽き飽き〉な~んて威勢のいい惹句が付いたコンピ『DEEPEN』。まあ、ジャジー・ヒップホップがどうこうじゃなく、どこがジャジーなのかわからないものをそう形容したり、メロディアスなものをメロウと言い間違えてる状況こそが糺されるべきなんだけど……とにかくここで紹介するコンピ『DEEPEN』は、真にジャジーで、真に甘美でメロウで、素晴らしい。ヨーロピアン・ジャズの人気レーベル、イタリアのスケーマなどの音源をソースに日本の敏腕クリエイターたちがリメイク/リミックス/カヴァーを披露した、すべて新録トラックから成るディープな一枚なのだ。

 幕開けを飾るのが現行ビート・ジェネレーションを代表する俊英=Olive Oilのトラックというだけで、それ以降の楽曲に期待が膨らむ人もいるだろう。彼の“Yellow Apple”は繊細なピアノ・ループを緻密なジャズの破片で執拗に取り囲んだ極上のOil Workに仕上がっている。続く“Bewithed”は女性ヴォーカルをフィーチャーしたRoundsvilleのラップ曲。1MC+1DJの新進デュオらしいが、ソウルフルなジャジー・ビーツと洒脱なフロウの絡みは単独作にも期待したくなる心地良さだ。そんなヴァイブをさらに上昇させるのが、お馴染みSHIN-SKIの“The Gods Of The Yoruba”。疾走感のあるインサイトのラップと女声スキャットを配した雄大な展開に頬が緩まない人はいないんじゃないか。その後にもAZZURROが硬質なビートで畳み掛ける“Onde Anda O Meu Amor”、A.Y.B ForceのBULLJUNが90年代マナーのドラムスを敷いて流麗なピアノをスウィングさせた“datumultuosnite”……と躍動的な好トラックが続き、幻想的なチル・ハウスに仕上がったearpの“Walking In The Snow Day”で緩やかにカーム・ダウン。

 新進ビートボクサーだというHIKAKINの小品を合図にスタートする後半戦では、もっとディープにグルーヴが蠢きはじめる。昨年“We Got The Love”をハウス界隈でヒットさせたInner City Jam Orchestraは、大西ユカリの加勢を得て哀感たっぷりに“Free Spirit”を披露。J・ディラ調のコズミックな酩酊感を充満させたgrooveman Spot、女性シンガーのPredawnを招いて夢心地な歌モノを仕立てたEccy、和心を靄のように染み渡らせていくDJ YAS(Blue Smithのリミックス盤にも参加!)と、各々の解釈によるディープネスの追求がなされ、SEPTEMBER NOTEのクールなジャズ・ナンバー“SIX”を経て、大ヴェテランの高木完が締め括る──極上の13曲。溶ける。

 いずれにせよ、細かい理屈や何やらはさておき、こんな季節にゆったり心と身体を温めたいなら、温かいサウンドに深く身を沈めればいい。本物を聴きましょう。

▼参加アーティストの作品を一部紹介。


Olive Oilの2008年作『Spring Break』(We nod)

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