
特別に意識しなくてもヒット曲は耳に届くだろう。そうじゃなく、まだ知らない楽曲に出会いたいのなら、独特の審美眼を備えたクラブDJの存在はやはり重要である。そんななか、〈R&B DJ〉として熱い支持を得ているのがDJ KOMORIだ。96年に活動を開始したという彼は、東京・渋谷のHARLEMでみずからオーガナイズするパーティー〈APPLE PIE〉をはじめ、全国各地のイヴェントなど年間120本以上もの現場スケジュールをこなしている多忙な人気DJである。
一方でKOMORIは〈Monthly Fruits〉シリーズを軸としたミックスCDでも信頼を獲得してきた。ここ数年はオフィシャル作品も増え、より多くのリスナーが彼の流儀で繰り出されるグルーヴに満たされていることと思う。「R&Bがいちばん好きなのに、当時はそれだけをかけてくれるDJがほとんどいなかったから」こそ現在のスタンスに辿り着いたという彼。それゆえに日本のアーバン・リスナーの好みを知り尽くしたようなセンスが備わっているのも当然だろう。
「R&Bやヒップホップが日本でメジャーになったいま、これからは海外のトレンドを踏まえたうえで、日本独自のトレンドをDJから発信するということがマストになっていくと思います。日本にはイイDJがたくさんいるのに、海外から来たDJに引け目を感じることはないんです。ヒップホップやR&BのDJが〈NYでこれが流行ってるから……〉って、それをそのまま日本でプレイする時代は終わったんじゃないでしょうか。僕は自分の感覚とセンスにプライドを持っていますよ」。
そんな彼がR&Bをプレイするうえで特別に気を配っているのは「曲の良さを活かす」ことだという。
「それはただシンプルにプレイするということではなく、派手に聴かせる時もあれば、テクニックを使う時もあります。エディットしてループさせたりスクラッチを入れたりすることもあるけど、それは基本的に曲を格好良く聴かせたい、という気持ちからですね」。
彼のそういった意識は、当然ミックスCDにも埋め込まれている。一般的なヒット曲や有名曲を大盛りにした作品が数多いなか、KOMORIの作品が人気なのは、さほど知られていない楽曲も題材にしつつ、それでいて誰でもすぐに入り込める流れを作り出しているからだろう。
「そう言ってもらえるのは凄く嬉しいですね。ヒット曲をみんなで楽しむっていうのは、クラブではもちろんアリなんだけど、ミックスCDでそれをやる必要はないと思うんですよ。ヒット曲はみんな知ってるわけだし、知られてない曲を格好良く聴かせて世に広げていくのがDJ本来の仕事であり、音楽の仕事に携わる人たち全員の欲求だと思うんです。僕はそれを言葉ではなく、作品でやり続けていかなきゃいけない。DJもメディアに出ることは必要だし、良いことだと思うけど、本来は良い音楽を掘り下げたり作ったりして、より多くの人に紹介するのがメインの仕事だと思ってますから。基本的な部分はブレないように、音楽そのものでチャレンジし続けていきたいですね」。
そんな格好良すぎる発言を裏付けるのが今回リリースされた最新ミックス『UK Emotional R&B Mix』だ。今回は人気レーベルであるドームの音源を中心にした、彼の真骨頂とも言えるUK産R&Bが題材なのだが、思えば初の公式ミックスCDもドーム音源を使用した〈DRAMATIC DOMEMIX〉だった。
「ドームに思い入れはもちろんあります。ずっとクォリティーの高い音楽を出し続けていて、昔から好きなレーベルでした。ドームのCEOが前のミックスを絶賛してくれて〈またぜひ仕事をしたい〉って言ってくれたのも嬉しかったし、その頃から〈もう一度〉と思っていたんですよね」。
BPM速めのイマっぽい展開と、スムースなグルーヴが昂揚感を帯びていく素晴らしい流れは……もう味わってもらうしかない。なお、今作にはジェイ・ショーン“Maybe”のKOMORI自身によるリミックスも収録されている。今年は初のプロデュース曲“Really Into You”もリリース済みの彼だが、今後はトラック制作も積極的に行っていく予定なのだろうか?
「これからもどんどん作っていきますよ。いまは日本の女性R&Bシンガー2人をフィーチャーしたトラックを制作中で、それをリード曲にして11月に日本のR&BオンリーのミックスCDを出します。これはいままでにないクォリティー/内容のミックスCDになると思うので、楽しみにしていてください!」。
制作オファーは他にも多々あるそうだし、この先はオリジナル曲で彼のセンスに触れる機会も増えていきそうだ。

KOMORIがもっとも好きなドーム産アルバムだというヒル・ストリート・ソウルの99年作『Soul Organic』(Dome)
▼KOMORIのフェイヴァリット盤を一部紹介。