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第147回 ─ 新作をドロップしたエレン・アリエンのビッチな日常に突撃しま~す

連載
360°
公開
2008/06/12   20:00
ソース
『bounce』 299号(2008/5/25)
テキスト
文/石田 靖博


 「私はビッチ・コントロールを、アーティスト個々のアイデアとプライオリティーが集合されたチャンネルだと思っているの。だからひとつのスタイルに固執することなく、エレクトロニック・ミュージック内を自由に暴れるのよ」。

〈WIRE〉への何度かの出演、そしてルックスの麗しさで知られる人気女性DJ、エレン・アリエン。彼女が97年に設立した、ベルリンを代表するテクノ・レーベルこそビッチ・コントロール(以下BPC)だ。エレン自身も語るように、かつてのBPCはキキの“Gas 126”(2001年)と『Run With Me』(2004年)が大ヒットしたこともあって、ドイツ的なエレクトロ・ディスコ路線のイメージが強かった。が、エレンの『Thrills』(2005年)をリリースした頃からクリック・ハウス的な要素も深めつつ、話題のモードセレクターが大ブレイクしたことでさらに注目され、ムーディー・クリックの貴公子ことサシャ・ファンケらも参加した強力な内容のミックスCD〈Boogy Bytes〉シリーズも好評を博している。このように一筋縄では行かないヴァラエティーに富んだリリースを続けながら、一方ではよりシブいフロア・チューン専門のサブ・レーベル=メモも立ち上げ、この先にはモードセレクターとアパラットのコラボ・アルバム(!)やテレフォン・テルアヴィヴ(!!)のリリースも控えているそうだ。

 そして、今回リリースされたエレン自身のニュー・アルバム『Sool』は現在のBPCを象徴するような作品となった。そこではクリック・ハウスの流れを踏まえつつ、“Sprung”や“Frieda”のように生音使いの柔らかさを前面に出したトラックも深い印象を残す。

「〈Sool〉というタイトルは私の幻想の象徴で、愛情に満ち溢れていて平和と協調性のある、存在しない惑星のこと。今度のアルバムはミニマルで抽象的だけど洗練されていて、コンセプチュアルなアルバムにしたかったし、そうなったと思う。ヴォーカルは意図的にカットアップだけを使ったけど、亡くなった祖母に捧げた“Frieda”だけは祖母への思いを表現したくて歌入れをしたの」。

 アルバムには猛々しく過剰なアッパーさもなく、陰鬱さを漂わせる耽美なダウナー感もない、どこか達観したようなフラットな感触が漂っている。それでいてキッチリとフロア仕様でもある、彼女ならではの絶妙なミニマル・サウンドに仕上がっているのが凄い。

「自分のDJセットに入れたいトラックを作るというのは当然のことだし、むしろDJセットからだいたいのインスピレーションを受けるわね。〈フラットな感触〉はたぶん共同プロデューサーのAGF(ヴラディスラヴ・ディレイの彼女でもある女性クリエイター)によるものだと思うわ。今作はクリック・ハウスではなくて、私なりのミニマルなの」。

『Sool』、そしてBPCにはいまいちばんおもしろく、スリリングなテクノの要素が詰まっている。これらをチェックしないのは音楽リスナーとして何か損している、とまで言ってしまいたくなるのだ。

▼エレン・アリエンのオリジナル・アルバムを紹介。


2001年作『Flieg Mit Ellen Allien』(Bpitch Control)


2003年作『Berlinette』(Bpitch Control)

▼エレン・アリエンの自社製ミックスCDを紹介。

▼エレンが2007年に発表したミックスCD。

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