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第7回 ─ やっと渡されたラップ教科書~キングギドラ『空からの力』

連載
サ イ プ レ ス 上 野 の LEGEND オブ 日 本 語 ラップ 伝 説
公開
2008/06/05   18:00
更新
2008/06/05   18:11
テキスト
文/東京ブロンクス

希代のエンターテイナーにして、ヒップホップの未来を担うラッパー、サイプレス上野の月刊連載! 日本語ラップへの深~い愛情を持つサイプレス上野と、この分野のオーソリティーとして知られるライター・東京ブロンクスの二人が、日本語ラップ名盤を肴にディープかつユルめのトークを繰り広げます。今回取り上げるのは、キングギドラの95年作『空からの力』。ゲストには日本語ラップDJの筆頭、KAZZ-K(STERUSS)をお呼びしました!

●今月の名盤:キングギドラ『空からの力』
ZEEBRA、K DUB SHINE、DJ OASISの3人組が95年に発表したファースト・アルバム。押韻を重視したラップ・スタイルや高いメッセージ性が、その後のシーンに絶大な影響を与えた。なお、キングギドラは96年に活動休止したが、2003年に復活を果たした。(bounce.com編集部)

ブロンクス 今回は臨時講師として、ZZ PRODUCTION所属の日本語ラップのナンバーワンDJ、KAZZ-K先生にお越しいただきました!

KAZZ-K STERUSSのKAZZ-Kです。よろしく!

上野 (客の女の子を見て)あの子すげえなあ……スイカップだよ! いやあ、いい季節になってきましたね。

ブロンクス あれが噂の“F.F.B(ファーストフード・ビッチ)”?

上野 その曲の話から(笑)? 復活した後の曲じゃないすか(笑)。

ブロンクス でも、いままでのキングギドラの曲で何が一番好きかって訊かれたら、俺は“F.F.B”だよ。とか言っとく。『空からの力』が出たときって、KAZZ-Kはいくつだったの?

KAZZ-K 俺、高2。(上野氏のことを)まだ全然知らないとき。

上野 ズケさん(KAZZ-K)は地元の後輩の兄貴と同級生だったんですよ。その兄貴から「STERUSSってグループがいるから勉強しろよ」とかって言われてたんだけど、その兄貴をすげえ馬鹿にしてたから「何言ってんだ?」って思って。

KAZZ-K あいつが言うと余計に信用できない、みたいな感じだ。

上野 で、ベルファーレでやってた〈JACK THE RAPPER〉ってイヴェントに行ったら、フリースタイルの輪ができていて、その中心にいたのがSTERUSSだったんですよ。「ほう……あれがSTERUSSか」って偵察して(笑)。

ブロンクス これっていつ発売だったっけ?

上野 95年の12月発売だから……俺は中3か。このポスターが特典だったんすよ。

ブロンクス あと丸いステッカーも付いてたね。

上野 KGマークのやつですよね。

ブロンクス あのKGマークはYAS5*1仕事で、ジャケのロゴの方はBBPのKCD君*2がやってたんだよ。
*1 グラフィティ・ライター。
*2 クリエイティヴ・プロダクション、BBP所属のデザイナー。

KAZZ-K いまみたいにプリンタもデジカメも発達してなかったし、ステッカーってB-BOYにとってはすごい貴重だったよね。

ブロンクス みんなウォークマンに貼ってたよね。強引に貼って、開け口のところはカッターで切ったり。

上野 やりましたねえ! そういうクリエイティヴな技を駆使して……クリエイティヴなのかわかんないけど(笑)。

ブロンクス 二人はこのアルバム、いまでも聴いてる? 俺は聴けば大体歌えるけど、21世紀に入ってからは1回も聴いてないかも。

上野 いまはさすがに聴いてないけど……でも1年に1回くらいは聴くかなあ。

KAZZ-K “登場”とか“地下鉄”ってCDにしか入ってないんだよね。当時はアナログしか持ってなかったから知らなかった。まあ結局はスキットなんだけど。


95年発売のコンピレーション『THE BEST OF JAPANESE HIP HOP VOL.2』

上野 『空からの力』が出る前に、ギドラは『THE BEST OF JAPANESE HIP HOP VOL.2』に参加してましたよね。〈SAGA OF K.G.〉名義で。

KAZZ-K あれは、キングギドラって名前がメジャーで使えなかったからなんだよね。復活したときはちゃんと許可を取って。つづりも違う。

上野 あれに入ってた曲(“未確認飛行物体接近中”)はかっこよかった。

ブロンクス あのシリーズはVOL.2が一番良いよね。SOUL SCREAMが2曲入ってて、あとMUROとか。

上野 “FREE WAY”(DJ BEAT featuring SOUL SCREAM)が入ってるんすよね。SOUL SCREAMの“自由街道”の前に出てた曲。「ラージ・プロフェッサーより早いぜ~!」ってユウさん(YOU THE ROCK★)もラジオでやたら褒めてたという。

KAZZ-K SOUL SCREAMのもう1曲“KRUSHNOTIZED '95MIX”は、DJ KRUSHさんとやってるんだよね。これがのちにジブさん(ZEEBRA)を加えて“追われてる”って曲になる。

ブロンクス じゃあキングギドラを一番最初に聴いたのは『THE BEST OF JAPANESE HIP HOP VOL.2』?

KAZZ-K そうじゃないかなあ。

ブロンクス 確か「ヒップホップ・ナイトフライト」*3で“見まわそう”がかかってたよね。
*3 YOU THE ROCK★によるラジオ番組。

上野 そうだ、そっちの方が先だ。その回のとき寝坊して、「ヤベー!」って、あわててラジオをつけたら、ギドラがスタジオ・ライヴをやってて、また「ヤベー!」って。

ブロンクス あの衝撃はなんだったんだろう? やっぱり韻の踏み方なのかな。ギドラは最後の一文字とか二文字じゃなくて、ちゃんと単語単位で韻を踏んでたよね。

KAZZ-K そうだね。あと言葉選びが面白かった。まだUBG*4ができる前だったけど、あそこらへんの軍団は韻が固いイメージがあったよね。
*4 URBARIAN GYM。ZEEBRAが率いるクルー。ACTION、KM-MARKIT、UZIらが所属。

上野 ギドラと言えば“スタア誕生”。

KAZZ-K 日本にもストーリー・テラーがいたっていう。ブロンクスはあの曲嫌いだったの?

ブロンクス 当時は聴いてたよ。でも正直、K DUB SHINEのリズム感は、俺的に最初はなかなか受け入れがたいものがあった。つっても、なんせジブさんがダントツでうまかったからね。

上野 そうっすねえ。