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第7回 ─ やっと渡されたラップ教科書~キングギドラ『空からの力』

第7回 ─ やっと渡されたラップ教科書~キングギドラ『空からの力』(3)

連載
サ イ プ レ ス 上 野 の LEGEND オブ 日 本 語 ラップ 伝 説
公開
2008/06/05   18:00
更新
2008/06/05   18:11
テキスト
文/東京ブロンクス

ブロンクス そうそう、「FRONT」誌でジブさんがやってた〈WORD IS BOND〉がマジでやばかった。リリックの対訳を載せる連載で解説もついてて。

KAZZ-K ラキムとかスリック・リック、KRSワンのリリックも載ってたしね。それまでは、たぶんヒップホップ・マナーを把握した訳者がいなかったんだよ。

ブロンクス ジブさんもあの連載は結構落としてたけどね。でも、その穴埋めで〈ラップじゃんけん〉っていうまた新しい企画が生まれたり(笑)。

KAZZ-K あの頃の「FRONT」誌は資料価値が高かったし面白かったよ。

ブロンクス それから、当時のジブさんは新人をフックアップするのがうまかったよね。UBGもそうだし、HILL THE IQとか。サビとかイントロでジブさんが入ってくるのは、韻が固い奴っていう証明書だった。

上野 それはあった。UZIさんの“マグマ沸騰”とかすごい期待感が高くて。「ジブさんがイントロやってる人だったら間違いねえ」みたいな。UZIさん、帽子の上にニットキャップ被ってたよね。

KAZZ-K あれは真似したなあ。当時、ジブさんとかもツバ付きのニットを被ってたじゃん。あれはみんな被ってたよね。

上野 よく考えると田中邦衛っぽいやつ(笑)。


もう一度ジブさんのファッションをチェックしよう!

ブロンクス 俺も東京ファントム*7とか下北のスパークスビート*8の前にあった軍物屋で買ってたよ。あと、ジブさんがそのポスターで被ってるハットも。
*7 ミリタリー・ショップ。
*8 ヒップホップ系の洋服を扱っていたお店。

上野 俺はジブさんのこのサマー・セーターを着てましたね。中3で1万2000円くらいで買わされるっていう。

ブロンクス サマー・セーター(笑)。

KAZZ-K そういえば、『空からの力』以前のK DUBさんってロン毛だったでしょ。バンダナっていうかヘアバンドもしてた。

ブロンクス 当時の「FINE」に載ってる写真の髪型が小野正利とか江口洋介っぽいんだよね(笑)。ジブさんはその頃から邦衛キャップだった。

上野 あれもほんとに流行りましたもんね。

ブロンクス 黒の邦衛キャップの横に、キングギドラの丸ステッカーを貼るっていうのが、オフィシャルで一番かっこいいパターン。

KAZZ-K 10枚くらいステッカーをゲットしたらできるっていう(笑)。

上野 いやあ、ジブさんのファッションは真似したなあ。ファッション・アイコンとしても完璧でしたよね。

ブロンクス まあ、そういってもジブさんも〈MC教室〉見ると角刈りだった時代も(笑)。

上野 でもモテるんだから凄いですよ。

ブロンクス あの人はマジでモテるよね、別格でしょ。日本語ラップを聴かないブラパンにすらモテてそう。

KAZZ-K ギドラで「日本語ラップはすげえ」って思ったけど、彼らは海外のものも聴けよってスタイルだったもんね。KRSワンを引用したり。

ブロンクス だからと言って、いま出てるような新譜をわざわざ命令されてまで聴きたくないけどね(笑)。クラブで聴くにはいいけどたいしたこと言ってないでしょ。

上野 確かに、俺らの時代はKRSワンとかチャックDとかラキムとかナズだったから、勉強しがいがあってまだ良かったけど、新しいやつらで教科書的な人ってのはいないかもしれないっすね。

ブロンクス DA.YO.NE~。じゃあ、そろそろ締めたいんだけど……。

KAZZ-K 『空からの力』は、タイトル曲が全然有名じゃない(笑)。

上野 それ全然締めじゃないよ(笑)。

ブロンクス 〈空から来た〉ってギミックと、韻の固さと、ポリティカルな視点。キングギドラはコンセプトがシンプルで明確だったよね。

上野 さすが! ディレクター的な発言でまとめましたね。いまは私生活ラップばっかりだけど、ちゃんと教えていく力がないとって思いますよ。ギドラはやっぱ先生でしたもん。

ブロンクス ジブさんは『THE RHYME ANIMAL』で、本当はもっと複雑な事もできるのに、シンプルな方向に行ったでしょ。

KAZZ-K カラオケで超歌いやすいもんね。それでよくわかる。

上野 (韻を)踏むところがしっかりしてるからね。カラオケで歌えるラップ1号(笑)。

ブロンクス それで締めるのも嫌だな……。まあ、あのアルバムは日本語ラップの基礎を作ったという。それ以上でも以下でもないんじゃないかな。映画の「戦艦ポチョムキン」とか「市民ケーン」みたいな一枚。

上野 ユウさんの『THE SOUNDTRACK '96』に近いかもですね。当時ありきのアルバム。時代背景もみんな入ってるし。

KAZZ-K そうだね。当時のことを考えると最高! っていう。

ブロンクス とは言っても、日本語ラップのファンでこれ聴いたことなかったらマジでサバいね。

上野 サバい! 懐かしいけど使い方間違ってないすか?

ブロンクス サバいかな?

KAZZ-K サバいでしょ(笑)。

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