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第146回 ─ いとうせいこうのミュージカル・ライフ

連載
360°
公開
2008/05/29   22:00
更新
2008/07/02   21:13
ソース
『bounce』 299号(2008/5/25)
テキスト
文/出嶌 孝次

俺は速度、俺は響き


  キミはいとうせいこうを知っているか? マルチ・タレント(便利な言葉だ!)としての彼はお茶の間でもお馴染みだし、宮沢章夫らとのラジカル・ガジベリビンバ・システムにまで遡れる演劇界での活動を知る人も多いだろう。小説家やエッセイストとしての活躍も言うまでもない。みうらじゅんとの共著〈見仏記〉は映像作品としてもリリースされ、〈ベランダー〉としての日常を綴った「ボタニカル・ライフ」(99年)は講談社エッセイ賞を受賞。その趣味が高じて一昨年には園芸誌「PLANTED」を創刊している。確かに、便利な言葉を使いたくなるほどの多才ぶりではある。

 しかし、レゲエやヒップホップからカッワーリーにまで広がる好奇心/造詣の深さをベースにした音楽活動を見過ごして、いとうせいこうのおもしろさを語ることはできない。日本にヒップホップなる〈カルチャー〉のありようを知らしめ、TINNIE PUNX(高木完&藤原ヒロシ)らと共に日本語のラップ表現における可能性を追求してきたその活躍は、後進に多くの影響を与えつつも特異で独創的なものだった。そんな彼も『OLEDESM』を発表した92年以降は徐々に音楽から軸足をずらしていくのだが……ここ数年でふたたび彼は自身の活動における音楽のウェイトを増している。そして今回、POMERANIANSとの意欲作『カザアナ』が到着したというわけだ。以降も會田茂一らとのコラボが続くという、いとうのミュージカル・ライフをこの機会に音盤で辿ってみよう。