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第26回 ─ POST ROCK

連載
Di(s)ctionary
公開
2008/05/01   13:00
更新
2008/05/01   15:50
ソース
『bounce』 298号(2008/4/25)
テキスト
文/田中 幹也

さまざまな音楽ジャンルを丁寧に教えてくれる誌上講座が開講! 皆さん、急いでご着席ください!!

I ポスト・ロックの成り立ちと特徴

 はい、こんにちは~。さっそくだけど、今日の宿題は〈ポスト・ロックを簡潔に説明しなさい〉だ。これは難問だぞ~! なにせ〈ポスト・ロック〉には明確な定義や音楽性など存在しないからな。この授業をしっかり聞いてないと、おそらく課題は提出できないぞ。では、まずその成り立ちから解説しよう。これは90年代初頭に興隆したシカゴのスリル・ジョッキーおよび、そこに所属するトータス周辺人脈に端を発するというのが一般的だ。彼らは〈シカゴ音響派〉とも呼ばれ、シーンの発展をサウンド的にも精神的にも牽引した、いわば顔役だな。そこにUKインディー界の潮流――例えばトーク・トークやバーク・サイコシスといったアート志向の強いバンドの暗躍や、ステレオラブのように自覚的に実験することを楽しんでいたバンドの出現、さらにはモグワイに代表されるシューゲイザーやゴスなどの影響を滲ませた轟音バンドの台頭――が交わった結果、90年代中~後期にかけて米英を中心に発展したわけだ。ちなみに〈ポスト・ロック〉という言葉自体は、音楽ライターのサイモン・レイノルズがバーク・サイコシスの94年作『Hex』のレヴュー内で使ったのが最初とされている。難関校の入試ではここまで出題されるからしっかり暗記しとけよ!

 さて、これらのバンドに共通している特徴は、ジャズ、クラウト・ロック、アンビエント、ダブ、エレクトロニカなど多様なジャンルの折衷に意欲的なことだ。従来のロックにはない斬新なコード進行や複雑なリズム、革新的な編集法などを駆使したスタイルは実験的で知的、と同時に非常にトンガったものである。USのポスト・ロック勢にハードコア出身者が多いのも納得だな。総じてポスト・ロックとは、〈ロックの枠を越えてしまったロック〉を便宜的に表した言葉が、そのままいち音楽ジャンルの呼称にまで発展したものだと言えるだろう。