ノスタルジックな吸引力に溢れた、時空を超えるロック盤

現在活況を呈している北海道からの登場、というだけでも興味が湧くが、プロデューサーが元KENZI & THE TRIPSの上田ケンジと聞くとさらにロマンティックな気分が盛り上がる。スモゥルフィッシュは札幌を拠点に、東京もライヴで頻繁に訪れているバンドで、2004年5月の結成以降シングル2枚とアルバム1枚を発表しており、この『僕はこの街にすむのさ』は13か月ぶりのセカンド・アルバムとなる。
サウンドの骨格を成すのは、アーシーな70年代的ロックのリズムに、ソウル・ミュージック風のしなやかなカッティングやワウ・ギターを組み合わせたものが中心で、たとえば2曲目“檸檬”は〈グルーヴ・ロック〉と呼ばれているスタイルに近い。“本日は晴天なり”はザ・バンドを思わせる粘っこくスロウなロックで、“六月の雨”はラテン、タイトル曲はレゲエのテイストを採り入れている。また“フルッティ”にはソウルフルなホーンを、“手をとりあって”では6/8のリズムにアコーディオンを加えるなど、楽器の使い方もアイデア豊富だ。さらに“一番星”は細野晴臣『HOSONO HOUSE』にありそうな美しいスロウで、シンガーである磯部和宏のフェイヴァリットにははっぴいえんど、ボブ・ディラン、はちみつぱい、ニール・ヤング……などとあるのが素直に頷ける仕上がりだ。風景と感情を照らし合わせてそのグラデーションを繊細に描く歌詞の語法は松本隆の影響があるだろう。その他の曲も、2008年といういまを一瞬忘れるほどにノスタルジックな吸引力に溢れているけれど、真似ではなくリスペクトが強く感じられて良い。素朴なヴォーカルは自分の言葉を歌うための必要にして十分な雰囲気と自信が感じられる。時間と空間を超え、心地良くマインド・トリップさせてくれる秀作だ。