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第136回 ─ ほら、耳を澄ましてごらん。新しいサンバのリズムが聴こえてくるよ!!

連載
360°
公開
2008/01/24   19:00
ソース
『bounce』 294号(2007/12/25)
テキスト
文/坂口 修一郎

ORQUESTRA IMPERIAL 新世代のサンバを奏でる夢のオールスター楽団


 近年盛り上がりを見せるリオのサンバ・ルネッサンス。その動きの中心に居るのがMPBシーンの中堅世代で、彼らによる古典や伝統へのリスペクトによるところが大きい。その筆頭格が、オルケストラ・インペリアルだ。耳の早いリスナーたちの間で噂を呼んでいたこのブラジル新世代ビッグバンドによる待望のフル・アルバム『Carnival So Ano Que Vem』が日本盤化される。〈宮廷のオーケストラ〉という優雅なバンド名のもとに集まったのは、リオの音楽シーンのなかでもとびきりの個性派ユニットであるモナウラルのカシンとベルナ・セッパス(両者はアルバム・プロデューサーでもある)を中心に、カシンとの〈+2〉プロジェクトでも活動するモレーノとドメニコ、新進気鋭のギタリストであるペドロ・サー、人気ロック・バンドのロス・エルマーノスで活動するホドリゴ・アマランチなど、現代ブラジル音楽を牽引する総勢19人のアーティストたちだ。  

 ケタ外れの絶賛を浴び、音源もないうちから口コミのみで評判が広がった彼らのライヴには、マリーザ・モンチやカエターノ・ヴェローゾ、それにプリテンダーズのクリッシー・ハインド、日本人ではakikoも飛び入りで出演している。また、俳優としても活躍するセウ・ジョルジも以前は在籍していたそうで、〈夢のオールスター楽団〉というキャッチ・フレーズは決して過言ではない。気の合う仲間が集まるピースフルなパーティー・ミュージックをモットーとするバンドだが、 先行する話題に比べるとその歩みは実にマイペースだ。

「メンバーの大半にとって、インペリアルは〈Bプラン〉なんだ。全員が個人や別のプロジェクトでも活動しているから、スケジュールが許すときに集まってる。だからこんなユル~い活動状況なんだよね」(ベルナ・セッパス:以下同)。

 彼らの音楽は、中心である30代のメンバーたちが子供の頃から慣れ親しんできたサンバやマルシャをベースにしたもの。彼らが伝統に対して大きな敬意を払っている事実は、古いサンバのカヴァーをやっていることや、バンドに71歳の長老ウィルソン・ダス・ネヴィスが在籍していることからも窺える。そして文字どおり70年代のトロピカリア・ムーヴメントの〈子供たち〉でもあるインペリアルのメンバーたち。トロピカリア世代が当時の最新音楽を積極的に採り入れていたように、彼らもまた新しいサウンド・アプローチに対して非常に貪欲だ。エレクトロニクスの導入にも柔軟で、アルバムには共同プロデューサーとしてマリオ・カルダートJrを迎え入れ、過去と未来を絶妙にミックスさせたサウンド作りを実践している。また、モンド・ミュージックの古典であるガーション・キングスレーの“Pop Corn”を突然カヴァーしたりする茶目っ気もこのバンドのおもしろいところだろう。

「インペリアルのケミストリーは本当に豊潤だよ。いろんなメンバーの組み合わせによる異なったフォーメーションで演奏している。サンバが行き着くところにエレクトロニックの要素が同居するという独特のサウンドになったのもそれがいちばん大きいよ」。 

 ルーツを強く意識しながら、それをサンプリング・ソースのひとつとしてチョイスしているようなクールな感覚もそこにはある。

「新しい音楽は常に作られているし、発見されようとしている。僕はいまでも古い偏見が良い音楽やハーモニー、メロディーの足枷になっていると感じている。ただし、この偏見は時間が解消してくれるだろう。時代よりもむしろクォリティーこそが重要なんだ」。  

 サンバをベースにボサノヴァやトロピカリアなどをミックスし、そこに実験精神を振りかけて出来上がったインターナショナル・ポップス。それがオルケストラ・インペリアルのサウンドだ。温故知新を地で行きながら、あらゆる音楽に向けて開かれている彼らの才能が、ブラジル音楽の未来、そして明日のサンバの進む道を提示していくことは間違いないだろう。

▼文中に登場したアーティストの作品を一部紹介。

▼オルケストラ・インペリアルのメンバーたちのソロ・ワークを一部紹介。

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