UKから世界中のヒップホップを送り出し続けて、ついに10年を突破!! 王道と異端、伝統と革新が共存し合ったレーベルのユニークでビッグなステップを再確認しよう!
安定した活動を長く続けているインディーのヒップホップ・レーベルを挙げるのはそう難しくないだろうが、それをUKから探すとしたらどうだろう。創設者のウィル・アシェンいわく「常に変動し、革新的であり続ける」というモットーを掲げたビッグ・ダダこそ、この10年をサヴァイヴしてきたUKでは希有なヒップホップ・レーベルということになる。
ニンジャ・チューンのサブ・レーベルであるビッグ・ダダは、もともと著名な音楽ジャーナリストのウィルがヒップホップ・ブランドの必要性をニンジャの経営陣に説いたことから設立に至っている。運営開始は96年の冬ながら、実質的な活動スタートは翌97年の6月から。キックオフを飾ったアルファ・プライムのシングル“Misanthropic”(ルーク・ヴァイバート制作!)からしばらくは地道に12インチ・リリースを重ねていくが、それらをまとめたコンピ『Black Whole Styles』を98年に発表して以降は、出身国も音楽性もさまざまな面々のアルバムをコンスタントにドロップするようになって、現在に至る。ルーツ・マヌーヴァやニュー・フレッシュらにUK産ヒップホップの更新を託す一方、進取の気性を備えたTTCやディプロらを表舞台に引き上げる……そのように王道と異端を併せ呑むレーベルの歩みを振り返ってみよう。
(出嶌孝次)
ROOTS MANUVA 『Brand New Second Hand』(1999)
レーベルの成功を決定付けた最初のアーティスト・アルバム。すでに同年のレフトフィールド“Dusted”で広い層から注目を集めていた主役のディ~プな語り口は、UK産らしくレゲエ成分も含有したストリートワイズな響き。全編を支配するマッシヴな空気感が心地良い。
(出嶌)
NEW FLESH FOR OLD 『Equilibrium』(1999)
トラックメイカーのパート2を中心に、トースティ・テイラーとジュース・アリーム(アルファ・プライムやガマの構成員でもある)の2MCを擁する名ユニットの処女作。緻密なサイファイ・ビート主体のクールな音像は、この時点ではどことなくニンジャ・チューン寄りだった。
(出嶌)
CLOUDDEAD 『Clouddead』(2001)
オッド・ノスダム、ホワイ、ドーズ・ワンというアンチコンの要人たちが組んだユニットの衝撃の1作目。イルでサイケなアブストラクト・サウンドに、自由奔放(に聴こえる)なヴォーカル・パート、その実験性を軽く飛び越えたポップさは奇跡的。これがヒップホップかどうかは愚問。
(池田)
LOTEK HI-FI 『Lotek Hi-Fi』(2003)
ルーツ・マヌーヴァとの絡みを経て頭角を現した彼ら。図太い低音のヒップホップ、レゲエ、ダブをバランス良くブレンドするセンスは実にUKらしいものだ。次作『Mixed Blessings』はレゲエ方面へ傾倒するが、これはまだその中間な感じで、そこがまた楽しめるところだったりする。
(池田)
BUSDRIVER 『Cosmic Cleavage』(2004)
飛び出すおっぱいロケット、繰り出される変幻自在のフリーキー・フロウ! デイデラスやプレフューズ73との共演でもお馴染み、US西海岸アンダーグラウンドMCの初作。いわゆる〈オシャレでジャジーなアングラ〉の真逆を行く超個性派のジャズ・トラックが聴きどころ!
(櫻井)
DIPLO 『Florida』(2004)
M.I.A.のプロデュースで名を馳せた彼ですが、本作でビッグ・ダダからデビューした当時は、〈ポストDJシャドウ〉なんて呼ばれてましたな。バイリ・ファンキ的な陽気さはまだないものの、マイアミ・ベースとエレクトロニカを混ぜたような奇々怪々な試みもアリ。この頃からハミ出していたのね。
(池田)

TY 『Closer』(2006)
ファンキーDL周辺で注目され、2000年にダダ入りしたロンドンのMC。この3作目ではデ・ラ・ソウルらUSの大物をソウルフルなマイク捌きで歓待しつつ、ウマー以降のプロダクションをUK流に発展させたようなテック・ビートを全面で披露している。アフロヘギのアルバム(→P97)にも客演してます。
(出嶌)
TTC 『3615』(2007)
プロデューサーは前作『Batards Sensibles』(2004年)と同じくパラ・ワン&タクティールなのだが、突如爆発的な盛り上がりを見せたフレンチ・エレクトロの波に上手く乗っかって一気に認知度を上げた3作目。解散も噂されていますが……たぶんこれがフレンチ奇形ヒップホップの最終進化型でしょう。
(櫻井)
WILEY 『Playtime Is Over』(2007)
もうMCはヤメた!という宣言と共にリリースされた、グライムのパイオニアによるセカンド・アルバムにして大傑作。XLから移ってきて1枚目でヤメるって……そんなに生き急がんでもいいのにね~。ここでも力強いビートを聴かせているので、今後はプロデューサー業に期待しますか。
(櫻井)
TTC 『Ceci N'est Pas Un Disque』(2002)
本国フランスで軽くコケた後、2000年にダダ入りしたトリオ(当時)のファースト・アルバム。DJヴァディムやドーズ・ワンといったニンジャっぽい顔ぶれに混じってパラ・ワンとタクティールもビートを提供しているが、後の彼らと比べればエラく几帳面な作りなのもおもしろい。
(出嶌)