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第68回 ─ アーツ&クラフツ

連載
Discographic  
公開
2007/09/27   03:00
更新
2007/09/27   16:39
ソース
『bounce』 291号(2007/9/25)
テキスト
文/冨田 明宏、村尾 泰郎

カナダ産のインディー・ロック人気に火を灯した重要レーベルを徹底解剖しよう!!

 19世紀の英国には産業革命でもたらされた大量生産によって、安価ではあるが粗悪な商品が街中に溢れていた。その状況にアンチを唱えた思想家/デザイナーが、ウィリアム・モリスだ。彼は美術工芸運動(Arts & Crafts Movement)を提唱し、芸術が華やかだった時代の手工業と生活を取り戻そうとした。

 そして21世紀。カナダはトロントから、ウィリアム・モリスさながらに現在の音楽シーンに異を唱える男が現れた。2002年に設立されたインディー・レーベルのアーツ&クラフツを主宰するジェフリー・レメディオス、その人である。アート・スクール時代の親友、ケヴィン・ドリューが結成したブロークン・ソーシャル・シーン(以下BSS)のライヴに衝撃を受け、彼とレーベルの立ち上げを決意。音楽性の素晴らしさはもちろん、ザラついた質感にこだわった帯付きのジャケット(大量生産は困難だそう)ほか、さまざまな側面からウィリアムの思想を体現している。BSS周辺の作品が主だった初期と比べて、現在では多くのアーティストを抱えるようになったアーツ&クラフツ(とはいえ、友達を通じて知り合った人脈がほとんど)。手作りで構築してきたサウンド、アートワーク、そして人間関係、そのすべてにいま注目が集まっているのだ。ここではそんなレーベルの魅力にググッと迫ってみたいと思う。
(冨田明宏)

BROKEN SOCIAL SCENE 『You Forgot It in People』(2002)
〈ジュノ・アワード〉を獲得するなど、彼らが注目を集めるきっかけとなった2作目。ジャム・セッションを軸にした美と混沌の世界は本盤から始まった。
(村尾)

JASON COLLET 『Motor Motel Love Songs』(2003)
BSSのメンバーにして、同バンド特有のギター・サウンドを作り上げたジェイソン・コレットのソロ作。BSSとは打って変わって、感情を抑えたような歌心溢れるフォーキーなサウンドがいっぱいです。
(冨田)

STARS 『Heart』(2003)
BSSにも参加するなど、いまやカナダを代表するインディー・バンドにまで成長した彼らのセカンド・アルバム。ソーダ水のように弾けるノイズと、ドリーミーな男女混声ヴォーカルがたまらない!
(冨田)

VALLEY OF THE GIANTS 『Valley Of The Giants』(2004)
かのゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーやBSSのメンバーも参加する、カナダ・ロック・シーンのオールスター・バンド! その自由でエクスペリメンタルなサウンドは圧巻の一言だ。
(冨田)

BROKEN SOCIAL SCENE 『Bee Hives』(2004)
シングルのB面とお蔵入り楽曲を集めた編集盤ながら、彼らの前衛的な側面を強調した、実験精神溢れるサウンドが楽しめる上質な作品だ。BSSを語るうえでハズせない一枚。
(冨田)

THE AMERICAN ANALOG SET 『You Set Free』(2005)
96年から活動するテキサス州はオースティンのヴェテラン・バンドもこのレーベルからアルバムを発表。エクスペリメンタルでローファイなサウンドと、曇天のように気怠いポップなメロディーメイクは流石です!
(冨田)

STARS 『Set Yourself On Fire』(2005)
複数のメンバーがBSSに参加するモントリオール出身の5人組。エレポップの音色をアクセントに、オーケストラルあり、轟音ギターあり。さまざまな要素を詰め込みながら、洗練された音作りとメロディーが眩く光る。
(村尾)

BROKEN SOCIAL SCENE 『Broken Social Scene』(2005)
現在のところ彼らの最新作。ファイストなど17名のファミリーが集結して、壮大なロックンロール絵巻を展開。ハイテンションなバンド・サウンドと、マッドなダブ/エレクトロ加工が火花を散らす壮絶バトル!
(村尾)