環境音楽ブームを巻き起こした、風変わりな楽団の軌跡

ペンギン・カフェ・オーケストラとは、70~80年代を通じて世界的に広く人気を博したミニマル・サロン・ミュージック・グループである。現在もTVCMなどに使われて高い人気を持つ彼らだが、このたびベスト盤とトリビュート盤が同時にリリースされることとなった。2000年代の耳で聴いてもなお刺激的なアイデアに満ちたこのグループは、70年代初頭にイギリスで結成、アンビエント(環境)音楽という概念を提唱して当時のリスナーに新鮮な衝撃を与えていたブライアン・イーノ主宰のレーベル、オブスキュアから76年にデビューを飾っている。その音楽は、ヴァイオリン、オーボエ、ヴィオラ、チェロ、ウクレレ、ホーンをはじめ、アコーディオンやハーモニウムなどといった、ユニークな楽器編成で奏でられるアコースティックなアンビエント/ミニマル・ミュージックであった。 現代音楽とリンクする要素を多分に持ちつつも決して難解ではなく、さまざまな民族音楽のエッセンスや、どこかユーモラスでイージーリスニングとしても十分機能するポップさを持つ不思議な音楽性。そんな彼らの音楽は、80年代に入ると環境音楽がブームになりつつあったこともあってTVCMやBGMとして使われるようになり、半人半ペンギンの独特なイメージと共に日本でも大きく注目を集めることとなる。そもそも中心人物であるサイモン・ジェフィーズは、かつて京都の竜安寺で修行しながら暮らしていた経験があり、活動の初期から日本との関わりは深かった。特に坂本龍一や矢野顕子とのコラボレーションは活発で、お互いの作品やライヴに参加し合い、共同で楽曲を制作するなど非常に親密な関係を築いていた。
そのサイモン・ジェフィーズが脳腫瘍のため48歳の若さでこの世を去り、グループが活動を停止してから早くも10年以上が経つ。しかし彼らが残した美しいアコースティック・サウンドと卓越したコンセプトは、現在でも後に続くアーティストに直接間接を問わず大きな影響を与え続けている。