NEWS & COLUMN ニュース/記事

第7回 ─ レイとスティーヴィーの謎

連載
Bar YAMAGA
公開
2007/06/21   13:00
更新
2007/06/21   17:55
ソース
『bounce』 287号(2007/5/25)
テキスト
文/〈Bar YAMAGA〉のバーテン

武藤昭平による、〈憧れのアーティストたちと酒場で酒を飲んだら?〉――という深夜の妄想話が二夜目に突入!

22:00pm  〈レイとスティーヴィーの謎〉

翌日、22時。二日酔いながらなんとか仕事を終えて、またいつものようにここに立ち寄ってしまう俺、〈Bar YAMAGA〉。癖というものは本当に怖いものである。が、やめられない。そして今夜はどんな出会いが、どんなドラマがあるのだろうか。期待を胸に店の扉を開ける。

 店に入ると早速おもしろい人物がカウンターで飲んでいた。レイ・チャールズだ。扉の音に反応し、俺のほうを見るやいなや「やぁ、ムトウ君じゃないか、ハハッ(笑)」と握手。何かおかしい。

「あ、どうも。いっしょに飲んでいいすか?」と隣りに座る。ビールを頼む俺にレイはメニューを見せて、「これがうまいからいっしょに食べよう。ハハッ(笑)」とオイル・サーディンを指差す。ますます何かおかしい。

 俺の脳内をかけめぐる疑問符を、レイに思い切ってぶつけてみた。「実は見えてるんですか? 目!」。すると、しばらく言葉を詰まらせたレイは、こう切り返した。「俺よりスティーヴィー(・ワンダー)のほうがひどいんだぞ」「えっ?」「スティーヴィーは昔、〈サタデーナイト・ライヴ〉っていうTV番組に出た時、カメラのCMをやったんだぞ。ハハッ(笑)」「見えないのに、カ、カメラって……。何を写すんですか?」。するとレイが続ける。「つまりこうだ。最初はスティーヴィーの奴、テニスをしてるんだよ。全部カラ振りだけど。ハハッ(笑)。すると誰かがスティーヴィーに〈次はこれ! ヘイ! スティーヴィー!〉って具合にカメラを手渡すんだよ。ハハッ(笑)」「それで?」「すると今度はスティーヴィーの奴、バンバン写真を撮り出して。それが水を得た魚のようにすごい勢いでさぁ。ハハッ(笑)」「で、何を撮ったんですか?」「空とか、山とか、見切れた人とか……ハハッ(笑)」「……」「で、最後にはスティーヴィーが〈ボクにも簡単に撮れるカメラだよ。ソー・イージー!〉だって。観てた俺は大爆笑で、思わずスティーヴィーに電話したぐらいさ。ハハッ(笑)」。

 そう思い出し笑いをしているレイに俺は言った。「やっぱり見えてるんですか?」「……」。

 しばらくの沈黙のあとレイが席を立った。「ああ、酔っ払った。今日は(和田)アキ子のウチにでも泊めてもらうとするか。じゃあムトウ君、くれぐれも内緒にな。ハハッ(笑)」。

……武藤昭平、あくまでも妄想の話。

深夜22時の妄想盤

RAY CHARLES 『Hallelujah I Love Her So』 Atlantic(1957)
当店にもよく顔を出し、豪快な笑いを振りまいてくれるレイ。今作は、表題曲を筆頭に“I Got A Woman”“Drown In My Own Tears”など初期の代表曲を詰め込んだベスト盤的な一枚。映画「レイ」に使用された楽曲も多く収録されているので、入門盤としても最適ですよ。

STEVIE WONDER 『Innervisions』 Tamia(1973)
いわゆる彼の〈3部作〉と称されるうちの一枚で、ファンクやサルサを採り入れるなどソウルの枠組を軽々と超えてみせた歴史的傑作。リリック面でも人種差別や戦争問題などシリアスなテーマを取り上げ、〈ホントは見えてるんじゃ?〉と疑いたくなるほどの鋭い〈目〉を光らせています。

PROFILE

武藤昭平
ジャズとパンクを融合させたオリジナルなサウンドで人気を博す伊達男音楽集団、勝手にしやがれのドラマー/ヴォーカリスト。マンスリー・ライヴ〈LET'S GET LOST〉も絶好調で、6月30日にはMO'SOME TONEBENDERをゲストに迎え、東京・渋谷CLUB QUATTROで開催するとのこと。ニュー・シングル『U-K-3 /IS YOU IS, OR IS YOU AIN'T MY BABY?』(エピック)と合わせて要チェックですよ。その他バンドの最新スケジュールは、〈www.katteni-shiyagare.com〉で!