ベベウ・ジルベルトやオットーといったブラジル新世代アーティストがフィーチャーされたワックス・ポエティックの新作『Brasil』がおもしろい。ベベウの最新作『Moment』にも共通する独特の浮遊感がある、ダウンテンポ~チルアウト、エレクトロニカにブラジリアン、ジャズなどさまざまな音楽的要素が融合した、先鋭的でクロスオーヴァーなサウンドが実にNYらしいのだ。また、今作は彼らが最初に契約したアトランティック(祝60周年!)の創立者である故アーメット・アーティガン(トルコ出身)に捧げられているところも興味深いが、リリースしたのはヌーブルという新進レーベルで、NYダウンタウンにある同名のクラブと共に最近、その動きが世界的な注目を集めはじめている。
その首謀者はトルコとスウェーデンのハーフであるサックス・プレイヤー、イルハン・エルサヒン。スウェーデンで育った彼は、90年代にNYへ移住するとダウンタウンのアンダーグラウンド・ジャズ・シーンで活動を始め、やがてテキサスからNYへ遊びに来ていた大学生のノラ・ジョーンズも名を連ねた、ワックス・ポエティックという不定形バンドを結成する(ちなみにノラの最新作『Not Too Late』に収録された“Thinking About You”は彼とノラの共作)。その後、上記のヌーブルをオープンするとノラをはじめ、ブランニュー・ヘヴィーズのエンディア・ダヴェンポート、レゲエDJのU・ロイ、詩人/ラッパーのソウル・ウィリアムス、ベベウ・ジルベルト、彼女のバックも務めるラウンジ・リザーズのパーカッショニストであるマウロ・レフォスコ、イタリアやアルゼンチン出身のメンバーを擁するブラジリアン・ガールズ、パンク・ファンク・バンドのクードゥー、トルコの先鋭レーベルであるダブルムーン周辺のアーティスト(イルハンは同レーベルからも作品をリリースしている)など、国籍も音楽性も違うミュージシャンたちが夜な夜な集ってセッションを重ねているのだ(最近ではマーク・ド・クライヴローやベンベ・セグエなどクロスオーヴァー・シーンのアーティストもライヴやセッションを行っている)。ということで、70年代ロフト・ジャズ的なこの小さなスペースから、NYらしいクロス・カルチュラルな新しい音楽が生まれてきているのである。

ワックス・ポエティックのニュー・アルバム『Brasil』(Nublu)