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第6回 ─ 最終回〈トム・ウェイツの最近〉

連載
Bar YAMAGA
公開
2007/05/10   17:00
更新
2007/05/10   17:44
ソース
『bounce』 286号(2007/4/25)
テキスト
文/〈Bar YAMAGA〉のバーテン

武藤昭平による、〈憧れのアーティストたちと酒場でいっしょに酒を飲んだら?〉――という深夜の妄想話 

6:00am  最終回〈トム・ウェイツの最近〉

 深夜6時。カウンター内に立っているのはトム・ウェイツ。「トムさん、ここで働いているんですか?」と俺が訊くと、「ああ、最近は酒をやめてもっぱらコーヒー飲んでてよ。曲作りのネタを探そうと、酔っ払い観察がてらココで働いてんのよ。お前らも俺を見習って酒やめて、朝早起きして自宅で野菜でも育てたらどうだ?」とトム。〈酔いどれ詩人〉と呼ばれた男からは想像もできない言葉だ。

 さらにトムは続ける。「ところでムトウにブコウスキーにボノに、おおジョー(・ストラマー)もいるのか。俺は店にいま着いたところだが、お前らいったい何時から飲んでるんだ?」「まあ、夜通し飲んでるかなぁ。トムもよかったら付き合えよ」とブコウスキー。「バカ言え。だから俺はいまから仕事だって。酒飲んでカウンターに入ってるところを、他の店員やオーナーに見られたらどうすんだ。でも、どうしてもというのならば後で一杯いただくよ。ブコウスキーにツケとけばいいかい?」「いやいや、ボノにツケてくれ」とブコウスキー。 

 すると、トムが店の奥を覗き込んだ。その視線の先には、酔っ払ってつぶれて眠る一人の男がいた。俺はトムに言う。「あ、俺夜中の1時頃からこの店にいるけど、あの人ずっと寝てますね」「……キース(・リチャーズ)だ」とトム。「ジャック・ダニエルの空き瓶とジンジャーエールがあるから間違いない」「ええっ!?」。さらにトムは続ける。「お前らより強者だ。キースは前の日から飲んでるぜ。昨日俺がこの店で見かけた時と服も変わってないし、もうかれこれ30時間は飲んでるっつうことか。家に帰りゃあいいのにな」「……」「あんなことしてるから木から落ちるんだよ」とトム。「起こしてきましょうか?」「ほっとけ。そのうち起き出したらジャック・ダニエルとジンジャーエールを渡しとくから」「……じゃあ、みんなで最後の一杯を乾杯して締めますか」と俺の発案でそれぞれ一杯ずつ注文。どさくさに紛れてトムも乾杯に付き合っていた。「これはボノのツケでいいんだな」。

 店を出ると、抜ける青空に似合わぬ男たちが仕事に向かう人の群れに紛れながら、それぞれの方向に散っていく。記憶は曖昧だが、気分がいいのは覚えてる。ちなみに〈Bar YAMAGA〉は24時間営業である。

……武藤昭平、あくまでも妄想の話。

深夜6時の妄想盤

TOM WAITS 『Bone Machine』 Island(1992)
85年作『Rain Dogs』でもキース・リチャーズのギターをフィーチャーしていますが、本作ではキースと共作した“That Feel ”にてアダルティーな2人のしゃがれ声デュエットが楽しめます。トムの渋い音世界にはいつも脱帽だけれども……勤務中の飲酒は厳重注意だな!!

THE ROLLING STONES 『Dirty Work』 Rolling Stones/Virgin(1986)
ソロ活動に専念するミック・ジャガーを尻目に、キース主導で作られた一枚。先行カットされたボブ&アールのカヴァー“Harlem Shuffle”でトムはピアノ&コーラス参加。この頃、〈キースとトムの親戚説〉が囁かれてましたが、それくらい近い関係にあったんですね!

PROFILE

武藤昭平
ジャズとパンクを融合させたオリジナルなサウンドで人気を博す伊達男音楽集団、勝手にしやがれのドラマー/ヴォーカリスト。リリースされたばかりのニュー・シングル『U-K-3/IS YOU IS, OR IS YOU AIN'T MY BABY?』(エピック)とライヴDVD「BLACK MAGIC VOODOO CAFE ~2006.10.14 Live At 日比谷野外音楽堂~」も大好評! その他の最新ニュースは、〈www.katteni-shiyagare.com〉をチェック!