コダクロームのフィルムが日本からなくなる。ドイツのアグファが市場から消え、ついに。デジタル写真と銀塩(フィルム)写真は別のモノ。アクリルと油絵、デジタルとアナログ録音と同じくらい。わたしの写真の先生が、「フィルムが選べるうちに沢山試すといい」と話していたのは、ついこのあいだ。その姿、深いコダクローム色の色彩にぼやけはじめる。
ロッセリーニの「殺人カメラ」をみて。
深い奥行き、絞り。この時代(52年)の映画では見たことのない映像美。白、黒、灰が滲むフィルムの力。走りまわる主人公チェレスティーノの顔は木彫りの人形。町に国からの補助金がおりる。その使い道を巡って、役人から貧乏人まで全ての人々が権利を主張する。チェレスティーノは「自分勝手なやつばかりだ!」と言い放つ。この映画は貧乏人の肩をもたないのが面白い。平等なのだ。エンディングの教訓に罪はない。教えを匂わすより直接的な表現がカラリとしていていい。
ある周期で耳が欲しがる音楽がいくつかある。パンクもそのひとつ。
〈ミニットメン〉。他のハードコア/パンク・バンドでは聞いたことのない個性的なドラム・パターン、殆どブルースのスケールを用いないリズム・ギター、コードを自由に転調し動き回るベース、この三つが一体になったのが〈ミニットメン〉のサウンドだ。それは世界の音楽を見渡しても唯一無二の存在。かれらの伝記映画「ウィ・ジャム・エコノ」のDVDに特典映像として収録されているアコースティック・ライヴが、わたし自身をがっしと捕らえる。二本のアコースティック・ギターとボンゴだけで演奏されているのだが、エレクトリックな編成より曲の個性が際立っている。そう、ニルヴァーナのMTVアンプラグド・ライヴのように。
01年、ダブル・フェイマスが、アリゾナからやってきたキャレキシコとジャパン・ツアーを行った。毎夜、キャレキシコがステージで演奏したのが、〈ミニットメン〉の“Corona”だった。
キャレキシコのマリアッチとポルカを混ぜたようなご機嫌なアレンジは、古びたコダクローム色の夏祭りをイメージさせた。
そんな〈ノスタルジックな気分に誘う音楽〉と仲の良いフィルムを、これからは探さなきゃならない。
いや、まだあるはずだ。
PROFILE
青柳拓次
サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アクティヴィスト。LITTLE CREATURESやDouble Famo-usに参加する他、KAMA AINAとしても活動中。3月25日に神奈川・Bank ART Studio NYKで開催される言葉のイヴェント〈BOOKWORM〉に参加する予定。