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第4回 ─ 糸井重里×大貫妙子×スチャダラパー対談 第4回は〈録り直したいけど……編〉

連載
NO MOTHER NO LIFE
公開
2006/11/24   16:00
更新
2006/11/24   20:29
テキスト
文/田口 寛之(構成/bounce.com編集部)

数あるRPGの中でも熱狂的ファンが多い「MOTHER」シリーズ。その最新作が、前作から8年の時を経て、今年春に発表されたことは記憶に新しいところ。そして今秋――。いよいよそのサウンドトラック盤『MOTHER3+』が登場!! ゲーム自体はもちろんのこと、「MOTHER」の中に広がる世界観のファンなど、さまざまな視点から期待が寄せられた本作には、そんな多くの声への回答と、いい意味での裏切りが内包されている。そこでbounce.comでは、プロデューサーの糸井重里、テーマ曲を歌った大貫妙子、そしてゲーマーを代表してスチャダラパーのBOSEとANIを迎えて緊急対談を決行! ……のはずが、話題はあちらこちらと思いがけない方向へ……。そんな寄り道しまくりのトークを、11月20日より〈ほぼ日刊〉で5日間連続更新いたします(23日の祝日はお休みです)!! 

――――「MOTHER3」を待望する声って、〈ほぼ日〉の8年間、ずっと届いてたんじゃないですか?

糸井 届いていましたね。

――――そういう声は、「MOTHER3」に反映されましたか?

糸井 いや……でも、時代が変わったから、8年前に考えたことをそのままは出せませんでした。音楽でもたぶん一緒だと思うんですけれど、〈古びないもの〉ということは意識します。かと言って、その当時はいいんだけれど今は違う、ということがあって、改めて組み直したところはかなりありますね。よしもとばななさんが「ひとかげ」って小説を出したらしいんだけれど、これは昔出した「とかげ」という作品のリメイクらしいんですね。すごいアイディアですよね! 「今はあの当時と同じ気持ちでは描けない」って言って、リメイクした。で、昔書いた「とかげ」も再録されてるんだって。この話を聞いて、すごく気持ちがわかるなって思ったんですよね。

BOSE わかります。僕らも、昔と同じ感じのことをやりたい気持ちもあるんですけど、そのまんま当時と同じようにやるのでは、逆に当時の気持ちは甦らない。少し変えると、今の感じになる。ちょっとした音のバランスだったり、言葉もそうですけど、少し変えると現在の音になる。

糸井 その謎を知りたいね。何があるんだろうね?

BOSE それは個人的な好みとも違うんですよ。みんなの感覚なんだと思うんですけど。

糸井 時代の空気の中にリズムがあるのかな。昨日、シュガーベイブの『ソングス』のリマスター盤を改めて聴いたら、ちょっと誤解を生む言い方だけれど、大貫さんがまだ下手なんだよね。驚いた。すごく昔から、ずっと上手いと思い込んでたから。サウンドは大瀧詠一さんだから、同時代のエッジになってるんだよね。だけど、〈若い娘が歌ってる〉って感じがするんです。

大貫 そう。だから穴に埋めたいんです。

糸井 埋めちゃダメなの! その時の下手さは、その時の魅力だから。

大貫 そう、埋めたいのは私だけで、人は自分が思うほど何とも思ってないということは頭ではわかってるんだけど。

ANI 気持ち、すごいわかります。

BOSE 僕らも録り直したいもんな。

糸井 でもずっと録り直してると、永遠にリリースできないんだよね。

大貫 そうなんです。どこかで諦めなきゃいけない。だからどこかで出しちゃうのが大事なんですよ。締切がちゃんとあるとかね。


ANI photo by MANABU HAGIRI

糸井 僕はある時に、今しか考えられないことは今、本にしておこうと思ったんです。それは、釣りを始めてすぐの時に、上手になったら過去のことをぜったい美化してウソをつくだろうなと思ったから。今だから感じることをとにかく書いておいて、あとで絶対にウソつくから、今のうちに出しておこうって、わざと出したことがあるんです。

BOSE 放っといたら、締切ないですもんね。

糸井 その時の良さって、大事だよね。失礼かもしれないけれど、大貫さんの下手さっていうのは、今の大貫さんからしたら「今ならこうできるのに」って考えちゃうと思うんだけれど。直していいって言われたら、直します?

大貫 でも直せないんですよね。あのトラックに上手い歌をのっけても意味がないってことは自分でもわかるんです。

糸井 足したり引いたりしててもしょうがない。それこそ呼吸が違っちゃう。そういうことが素敵だと思うんだよね。

大貫 だから、初期の頃の何枚かは消すわけにもいかないから、「今の大貫妙子を聴いて」って新しいのを作ってきてるのに、みんなに昔のがいいって言われると、もうねえ。


糸井重里 photo by MANABU HAGIRI

一堂 (笑)。

BOSE 大貫さんでもそういうことを感じられるんですね。

大貫 どうしたらいいんだろうと思うんだけど、でも作り続けるしかないんですよね。

BOSE その方が早いというか。それにそうしていかないと意味がない。

糸井 漫画家って、連載しているうちに上手になっていくじゃない。

BOSE 初期の頃と同じキャラでも顔が変わってたり。毛深くなってたり(笑)。

糸井 頭身が変わってたりね。そういうあたりって、お客さんに許されてるじゃない。だから、君たちも許されてるんだよ。そうとしか言えないよね。

BOSE そうですよね。自分たちのこと以外だと、わかるんですよ(笑)。大貫さんの初期の作品、僕も好きだし。でも「スチャの2、3枚目まではみんな聴くな!」という。

大貫 ポール・サイモンの初期とか、歌は下手なんだけど、すごくいいんです。音程なんかどうでもいいのね。

糸井 ポール・サイモンが下手だなんて思ったこともなかった。

大貫 別に、額縁にきちんと入ったようなものを求めてるわけじゃないんだって、聴く立場になるとわかるんですけど……、自意識過剰なんでしょうね。

BOSE 自分に関しては、〈上手く出来るんだったら上手くしたい〉というのはありますよね。

大貫 だから、いつも引き裂かれる思いなんです。

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