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第3回 ─ 僕らがドゥーピーズと再会する〈あの時間、あの場所〉

連載
ヤン富田 の MUSIC MEME
公開
2006/09/27   16:00
更新
2006/09/28   16:34
テキスト
文/二見 裕志

そのキャリアを通じてさまざまな音楽を実験的かつポップに発信し、国内外のファンを魅了してきた音楽家、ヤン富田。彼が書籍「フォーエバー・ヤン ミュージック・ミーム1」、CD『フォーエバー・ヤン ミュージック・ミーム2』発表を皮切りに関連作品を3ヶ月連続リリース……のはずでしたが制作スケジュールが延びるとともに少々計画変更。ドゥーピーズの11年ぶりのフル・アルバム『DOOPEE TIME 2』発表を11月に控え、まずは3曲入りのミニ・アルバム『フォーエバー・ヤン ミュージック・ミーム3』が届きました。そこで今回は短期連載特別編として、ドゥーピーズの歩みと新作について、DJから映画音楽制作まで幅広く活躍する二見裕志氏がご案内します。

恒川光太郎の「夜市」という小説をご存じだろうか。主人公の青年は、子供の頃行った祭りで夜市に紛れ込んでしまう。それは普通の人間には感知できない、特殊な生き物達が様々な物を売り買いする特殊な市場だ。唯一の決まり事は買い物をすること。買い物をしなければ、夜市から逃れることはできない。10数年たったある日、彼は蝙蝠から今夜再び夜市が開かれることを知る…。

1995年にリリースされたドゥーピーズのファースト・アルバムのラスト。「いつか、あの場所、あの時間に、また会いましょう!」……『DOOPEE TIME』と題されたあのアルバムのキーワードは、〈時間〉だった。アルバム・ジャケットにもCDの盤面にも、さらにはブックレットの見開きにも、執拗なまでに時計が描かれていた。そして今回の3曲入りミニ・アルバムの盤面にも、やはり時計があしらわれている。ドゥーピーズと〈時間〉の特殊な関係。

ドゥーピーズの基本コンセプトは、テープ変調させた女性ヴォーカルと共に、誰もがうっとりするような美しくドリーミーな調べを奏でることである。ヤンさんお得意のコラージュやモジュラー・シンセ・プレイも登場するが、本人名義の作品とは違い、それらはあくまでアクセント、アレンジとしての役割であることが多い。注意したいのは、〈テープ変調させた女性ヴォーカル〉を主役に置いている点だ。マルチ・トラックに伴奏部分を録音し、テープ・スピードを下げてヴォーカルを録音する。もちろんヴォーカルはその遅くなった伴奏に合わせて唄う。録音後、テープレコーダーのスピードをノーマルに戻す。すると、ヴォーカルだけが本来唄ったピッチより高く再生される。出来上がった声は、この世には存在しない、可愛らしいとばかりは言い切れない何とも不思議な世界を醸し出す。この世界こそが、〈あの場所〉であり、そしてテープ操作によって、演奏部分に流れている〈時間〉と、声が発せられている時に流れていたはずの〈時間〉が、ひとつの音楽の中に共存する。このふたつの異なる時間が合わさった時こそが、〈あの時間〉だ。それが〈DOOPEE TIME〉である。

ヤンさんは、ドゥーピーズと僕らが会う時を〈いつ〉とは限定しなかったが、時間と場所ははっきり指定していた。そして、その〈時〉がまたやってきた。懐かしいファースト・アルバムからの珠玉の3曲を軽快かつ濃厚なアレンジで。フル・アルバムの到着が楽しみでならない。

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