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第3回 ─ 地獄編!!

連載
iLL presents ムー 帝 国 か ら の プ レ イ リスト
公開
2006/08/03   21:00
更新
2006/08/04   12:26
テキスト
文/小野田雄

ファースト・アルバム『Sound by iLL』をリリースしたiLLによる語り下ろしオリジナル新連載がコチラ!! iLLこと中村弘二が、地球や宇宙のさまざまな深い神秘について語りつつ、そのシチュエーションにピッタリの5曲をリストアップしてくれます。神秘はどこにでも転がっている?かもしれない? 第三回目のテーマはお盆ということで(!?)〈地獄〉編。下の〈iLLなプレイリスト〉を参照しながらどうぞ!!



 曲を選ぶとき、古いものを先に選んじゃうと、どうしてもドアーズだったり、プログレッシヴなバンドのほうにいっちゃうから、誰でも買えて、誰でも知ってるバンドで選んだんだけど、そうすると、探すほうが大変だったりして。というのも、最近のアーティストは地獄っぽいロックをやらずに、もっと爽やかなロックをやってるから。あと、海外のアーティストに関して言えば、宗教観が違うから、地獄観も違うじゃない? だから西洋の地獄っていうと、ダンテの絵は分かるとしても、イメージ的に今イチぴんと来なかったりもして。かたや日本だと、仏教になっちゃうけど、血の池地獄とか釜ゆでとか針の山とか、そういうアイコンが出てくるんだよね。だから、今回のセレクションは日本寄りっていうか、地獄のキャラクターとして鬼を思い浮かべて選んだっていう。だから、水木しげる的世界というよりも、永井豪チックな世界だね。
 
1曲目のデス・フロム・アバヴ・1979は、最近のバンドっていうことで選んだんだけど、このバンドは結構自由な存在で地獄観を打ち出しつつ、ハードなんだけどちょうどいいバランスだったから。最初に来日したとき、観に行こうかなと思って観られなかったんだけど、登場時の期待は大きかったね。ま、いまはどんな感じなのかわかんないんだけど。俺にとっての地獄って、あんまり暗いメージがなくて……というか地獄に落とされた人の側から見たらダークなんだけど、これを選んでるときは鬼の気持ち、地獄サイドの側から選んでるから、これ聴きながら、人間をぐちゃぐちゃいたぶるのは楽しいだろうなと思って(笑)。だからMっていうよりはSだし、言ってみれば自分が裁くときのサウンドトラックだね。我ながらひどいなぁと思うけど(笑)。
 
2曲目はドイツのドゥンケルツィファー。カンにいたダモ鈴木さんがやってたバンドで、このバンドのことは全然知らなかったんだけど、ドイツではヒットしたらしい。で、このアルバムで1曲だけ“Aki No Aruhini(秋のある日に)”って日本語で歌ってるんだけど、それを聴いて大爆笑しちゃって(笑)。というのも歌の内容がダモさんのヒッピー的な人生観を考えると、うわぁ、これは地獄だなぁって思うんだよね。多分この曲ってカンの後のサラリーマン時代に書いた曲だと思うんだけど、〈何のためにこうして生まれて教育を受け、鎖に繋がれたの〉って、歌詞のノリも悪いし、演歌に近い聞こえ方をするんだよね(笑)。まぁ、でも人間社会こそが地獄ってことで、この曲は外せないね(笑)。ちなみにこのCDは東京タワーの蝋人形館で買いました。
 
3曲目は〈HELL〉で検索したら、『Hell's Kitchen』で引っかかったプロディジーのマキシムのアルバム。聴いてみたら、スカンク・アナンシーのスキンが歌ってるヴォーカル曲がいいかなと思って選んだ。メロディー部分は多分、ヴォーカリストが作ってるんだと思うけど、マキシム自体は途中でダミ声のラップをやってる。選んだ理由は『Hell's Kitchen』っていうタイトルとあとはマキシムの容姿。プロディジーでもお馴染みだと思うけど、黒人のマフィアみたいじゃん? プロディジー自体、音楽的にすごいことやってるなって思うんだけど、それ以上にフロントマンの2人のインパクトがデカくて。しかも俺はあの逆モヒカンのキースより、その相方的なマキシムのほうが好きっていう。キースってピエロっぽいじゃない? それに対してホントに怖いのはマキシムのほうだと思うんだよね。
 
4曲目はアタリ・ティーンエイジ・ライオット。久々に聴いたら良かったんだよね。アルバム全体を聴きたいとは思わないんだけど、1曲だけ聴くぶんにはいいね。この曲も1曲目のデス・フロム・アバヴ・1979に近くて、自分が鬼だったらってところで選んだんだけど、この曲を敢えて選んだのは、それ以外の曲を聴かされても覚えていないから(笑)。この“Revolution Action”は一応シングルになってるし、アタリ・ティーンエイジ・ライオットがメジャーになったきっかけにもなった代表曲だしね。あとこの曲を聴いていると、この曲ありきで始まったプロジェクトなのかなとも思うなぁ。それくらい他の曲より完成度が高いんだよね。ただこの人たちはアルバム・タイトル、曲名、あと何枚出してるかとか全く思い出せない。最近のアレック(・エンパイア)はロックに回帰しちゃってるみたいだね。
 
5曲目はレッド・ツェッペリン。この曲は単純で、子供の頃聴いて怖かったから(笑)。テレビでよくかかってたんだけど、聴くたびに〈何だろう、この怖い曲は〉って思ってたんだけど、ちゃんと音楽を聴くようになって、あの怖い曲はレッド・ツェッペリンだったんだって気付いた。いま聴くと、なるほどロックだって思うね。キャリア的には後期になればなるほど好きで、『Presence』なんかは愛聴盤だね。ただレッド・ツェッペリンって音楽的には神秘主義的な傾向はあっても、悪魔的な指向のあるバンドじゃないよね。もっと、神聖でホーリーな感じ。あの〈アアア~ア~〉っていう叫び声と歌詞がどうリンクしてるのかは謎だよね(笑)。
 
 しかし今回の選曲はいままでの3回のうちで一番悩んだね。自分のホームページでもディスク紹介をやってるから、その住み分けが難しいってこともあるし(笑)、いままでのテーマの中で一番イメージしやすかっただけに逆にやりにくかったっていう。あと鬼サイドから選ぶのか、それとも人間サイドから選ぶのか、その立ち位置によって変わってくるし、キッスみたいな地獄のバンドもいるじゃない? そういうのをどうしようか? とも思ったし(笑)。そういう意味では今回ひねりを加えてみた。俺が地獄を意識したのはいつか?小さい頃にお寺で地獄の絵の掛け軸を見たときかな。〈悪いことをすると、こういうところに落ちる〉って言われたんだけど、俺、別に仏教徒じゃないのにそんなこと言われて……ああ、なるほどって思った(笑)。ただ悪いことって定義の問題があって法律的に悪いことと人間的に悪いこと、あと地球的に悪いことがあるわけで……まぁ結果的には地球的に悪くなければ別にいいんだなって理解するようになったんだけど。人間の存在自体、地球に悪いって話もあるんだけど、地獄行ってる頃は死んでるわけで、まぁそう言われてもねぇ(笑)。それより地獄絵図を書いた人の想像力が地獄って気がするし、もっと言ってしまえば、現代こそが生き地獄なのかもしれない(笑)。

iLLなプレイリスト~地獄編~

1. DEATH FROM ABOVE 1979“Turn It Out”(『You Are Woman , I'm a Machine』収録)
2. DUNKELZIFFER“Akino Aruhini”(『III』収録)
3. MAXIM“Carmen Queasy”(『Hell's Kitchen』収録)
4. ATARI TEENAGE RIOT“Revolution Action”(『60 Second Wipe Out』収録)
5. LED ZEPPELIN“Immigrant Song”(『III』収録)