ファースト・アルバム『Sound by iLL』をリリースしたiLLによる語り下ろしオリジナル新連載がコチラ!! iLLこと中村弘二が、地球や宇宙のさまざまな深い神秘について語りつつ、そのシチュエーションにピッタリの5曲をリストアップしてくれます。神秘はどこにでも転がっている?かもしれない? 第二回目のテーマは〈魔女〉編。下の〈iLLなプレイリスト〉を参照しながらどうぞ!!

photo by yu-co ishikawa
ケイト・ブッシュはすごい好きだし、新譜が出たこともあって、最近またよく聴いているんだよね。この人は声の良さももちろんあるんだけど、その才能全てが魔女っぽい。女性だとNO.1かな。だって、17歳であんな変なアルバムでデビューしてるわけでしょ。あれはすごいよね。神がかかっているというか。俺もデビューは19歳の時だけど、その時書いてた曲の差がすごいある!! やっぱ天才だな、ケイト・ブッシュ!!と思って。CD化されてないライヴ盤もめちゃめちゃすごくて、ロック・ミュージシャンみたいに張り切ってるんだよね。だからこの人はクラシック音楽の要素だったり、カントリー、ロックンロール、今でいうビョークに繋がる前衛的な要素……全てを持っているっていう意味で魔女でしょ。
魔女って、呪術的な踊りの要素も含まれてるよなぁってことで、映画「Flashdance」もそう言えばダンスの映画だよなぁって思い出して。サントラ聴いていたら、自分内で一番ヒットしたのがドナ・サマーのこの曲(“Romeo”)。だから〈魔女→踊り→フラッシュダンス→ドナ・サマー〉っていう流れだよね。この曲のプロデューサーはジョルジオ・モロダーなんだけど、彼のミュンヘン・ディスコ、ユーロ・ディスコな作風はいまっぽい響きがあって、こういう曲は日本人がやるとまとまった感じになっちゃうんだけど、この曲はベースはキュートでありつつ、ドナ・サマーのヴォーカルはロックンロールっていう。そういう違和感があるから、いま聴き返すと楽しいんだよね。
「サスペリア」は監督のダリオ・アルジェントをここ数週間調べていて。発端はジョージ・A・ロメロが撮った「ゾンビ」はロメロの監修版とダリオ・アルジェントの監修版があって、編集のテンポが良くて怖いって評判のダリオ・アルジェント監修版を買おうと思ったらすごく高くなってて。だから、この映画を思わず手にとってみたんだけど、いかにも怪しいなっていうヤツがホントに怪しいっていう、ひねりもなにもないお話でありながら、人の殺し方がホントに上手い!!というか。キレイな殺し方がいま観ても斬新で。だって、ナイフで刺して、4回目に刺すカットで傷口がぱっくり開いて、心臓が見えてるのに、その心臓に刺すわけですよ。そんな映像、観たことないし、怖い映画を撮るなら、これくらいやらなきゃねって。この映画は自分が生まれた77年の作品なんだけど、自分が生まれた年の空気感を知りたかったのと、ダリオ・アルジェントの才能に触れたいっていう理由から、この映画を手に取ったら、題材が魔女だったっていう。

手塚治虫の74年作「ばるぼら」
「ばるぼら」はヒット作がなく、いわゆるスランプと言われていた70年代の手塚治虫の作品で、俺はその頃のものが一番好きだったりして。そのなかでも 「ばるぼら」は断トツに好き。どういうところがっていうと、最終的には黒魔術の話になるんだけど、冒頭の一話、二話まで、そんなことに全く触れてなくて最初はつまらないのね。で、中盤から一気に面白くなるんだけど、それが意識的な手法だとしたら、これはすごいなぁと思うし、もしくは途中から題材の変更をして……だから前半がプリプロで、後半がライヴみたいなことなのかなって(笑)。この作品あんまりみんなに知られてないんだけど、実はよく出来た、映画にしてもいいくらいの作品だと思う。
マジー・スターはヴォーカルのホープ・サンドヴァルが、ジーザス&メリーチェインのウィリアム・リードの彼女っていう話を知って買ったんだけど、そうしたら、内容がものすごくよくて。ジーザスよりいいじゃんっていう(笑)。彼女は魔女的な、魔性の女みたいな言われ方をしてて、インタビューで真面目に答えないっていうスタンスも好きだったし、すごい綺麗な人でいて音楽的にはダークだし。すごい珍しい存在だよね。彼女の声って、ロリータ・ヴォイスって形容されてるけど、音楽があまりにヘヴィでダークだから、ロリータ云々ってことを感じさせないんだよね。あと、この曲(“Five String Serenade”)って、俺がチューナーがない状態でギターをチューニングする時に弾く曲なんだよね。この曲と、あとニルヴァーナの“Come As You Are”ね(笑)。で、その後、チューナーでチェックスすると半音ズレてる、みたいな(笑)。
今回魔女をテーマにしたのはめちゃくちゃ短絡的なんだけど、ここ数週間で「サスペリア」のDVDを買って観直したのがきっかけで、〈ヤバい!! 魔女だ!!〉と思って(笑)。えっ俺の〈魔女〉観? う~ん……いわゆる伝統的な魔女と現代的な魔女の線引きは自分のなかでは出来てて、拷問されて死んじゃった昔の魔女たちと細々といまもヨーロッパで受け継がれる魔女は、もともと一緒なのかもしれないけど、置かれている状況が全然違うじゃない? 現代の魔女は白魔術も黒魔術もどっちもいるだろうし、いまも続いているブードゥーなんかもその一部だし、アメリカには全米魔女協会ってのがあるらしいしね。その一方でヨーロッパには薬剤師、助産婦、民間療法のヒーラーとか、そんな意味合いもあるらしいし、薬草とか祈祷師とかそういう物知りお婆ちゃん的な存在と考えてもいいんじゃないかな。そういえば、なんかのテレビでスペインの魔女を拷問する拷問部屋をレポートしてて、それを見て思わず感心しちゃったんだけど、こっちが吹き出しちゃうような笑える殺戮マシーンがいっぱいあって、緻密に作られてるんだけど、ここまで来るとアートっていうかそんなものを作ったヤツのほうがよっぽど危ないんじゃないかっていう(笑)。
iLLなプレイリスト~魔女編~
1. KATE BUSH“James And The Cold Gun”(『The Kick Inside』収録)
2. DONNA SUMMER“Romeo”(『Flashdance』サウンドトラック収録)
3. ダリオ・アルジェント「サスペリア」
4. 手塚治虫「ばるぼら」
5. MAZZY STAR“Five String Serenade”(『So Tonight That I Might See』収録)