ファースト・アルバム『Sound by iLL』をリリースしたばかりのiLLによる語り下ろしオリジナル新連載がコチラ!! iLLこと中村弘二が、地球や宇宙のさまざまな深い神秘について語りつつ、そのシチュエーションにピッタリの5曲をリストアップしてくれます。神秘はどこにでも転がっている?かもしれない? 第一回目のテーマは〈台風の神秘〉編。下の〈iLLなプレイリスト〉を参照しながらどうぞ!!

photo by yu-co ishikawa
この曲(“The Slider”)がっていうより、Tレックス自体が台風の空を飛行機で上から見た画っていう感じ。Tレックスってブギー調て言われるものの、全盛期は重たい感じがして。それがなんか台風の〈ゴーッ!!〉ていう重い空気感と同じに聴こえる。楽曲に重さがすごいあるっていうか、すべてが重たいんだよね。アイドル・バンドには聴こえない。
台風て毎日来るわけじゃなくて、たまにデカイのやってくるじゃない? 今回選んだのは全部その感じ。シェド・セブンは違うけど(笑)。こないだフジロックでPJハーヴェイ来たときも、あの空間だけフジロックがすごい良くて。俺もどんなライブするか見たかったし。レッチリとかみたいに世間も雑誌展開はしないんだけど、いざライブ来たときにはみんな〈おぉ、PJハーヴェイだ〉てなる。それが台風ぽい。来たら来たで嬉しいし、来ないなら来ないでわかんない、みたいな。ていうか〈どうしてんだ?〉って記憶になくなるぐらい一回消えるんだけど、ハマるとスゲーどん詰まりにハマっちゃうっていうか。
台風が来たときってある種楽しいんだけど、そのあと晴れるから、気分がセンチメンタルというかちょっと空っぽになる。シェド・セブンのこの曲(“Ocean Pie”)は台風のあとのちょっと地面が濡れた感じがする。しかも俺はこの曲しか好きじゃないっていう。他の曲は全く興味ない(笑)。この曲は全体的に濡れたウェットな感じで、だけど上空はすごい乾いてるっていうか。それがうまく表現されてる。まさか俺の頭からシェド・セブンが出てくるとは意外だったんだけど。
シャーコはバッタもんの(フレーミング・)リップスみたいな感じなんだけど……バッタもんのリップスって失礼だけど(笑)。どこのバンドか全く不明。セカンドかサードぐらいまで出してると思うんだけど、存在は日本では知られていないかもしれない。たまたま俺がレコード屋で〈なんかヘンなジャケットだな〉と思って買ったら、すごいおもしろいし気に入って。(聴きながら)この“Bootleg of AC/DC”てタイトルはちょっとナメてるでしょ。リップスもちょっと混沌とした感じが台風っぽいし、あと台風上がりの感じももちろん持ってるんだけど、最初持ってくるのは普通だなぁと思って、リップスに近いものを持ってこようと。シャーコは日本盤もリリースされてないから、知らせなきゃと思って。
ルシャス・ジャクソンのこの曲(“Deep Shag”)はプロモ・クリップにたしか水が出てきたと思うんだけど、泳いでるシーンみたいのが挿入されてて、そのビデオのイメージが強い。曲自体も乾いた部分とウェットな水のなか、みたいなのが同居してる感じの曲だなぁと思って。たとえばニール・ヤングの“Like A Hurricane”とかは〈台風っぽい曲にしよう〉とか考えて作るわけじゃん。そうじゃなくて、無意識か意識的かわからないけど、すごくウェットな部分とドライな部分を醸し出してる曲を選びたかった。
最初第一回だから、宇宙の〈ブラックホール編〉とか〈火星編〉とかも考えてはみたんだけど、まずは地球から攻めないとって思って。イメージとして段々上空に行ってくほうがいいかなぁと。いまiLLでやってるような打ち込みのものって台風っぽさはなくなるような気がする。電子音とかって雲よりもっと上の世界だったりするから。生バンドで普通に歌があるものでできる最上の世界って雲のラインでストップするっていう気がするんだよね。土っぽさからスタートして飛び抜けてって、歌が入って、飛んでいく場所が雲の世界で終わっちゃうっていうか。黒人はわりとそれを突き抜けるっていうか、スペイシーな方向になぜかいく。今日選んだのは全部白人なんだけど、おもしろいなぁと思うのは白人の潜在意識で考える〈高く飛ぶ〉っていうのは、雲の位置っていうか、地球ぐらいの高さかなっていう。それに対して黒人とか東洋人の考える飛ぶっていうか上の意識ていうのは、宇宙とか心のほうへ行くのかなって。どっちがいいってわけじゃなくて。例えばジム・モリソンとかも不思議と宇宙行かなくて、飛ぶ先がエジプトとかそっちに行くんだよね。
前になんかで読んだ話で、人の意識が作り出すエネルギーで台風の進行方向とか台風のエネルギーが決まっていくっていう。例えば戦争で死んでいく人のエネルギー体が凝り固まって巨大になって台風がアメリカを襲うみたいな書き方をしてたんだけど……〈そうかぁ〉とは思わないんだけど、あながち外れではなくて、絶対何かが全部関係してるとは思う。科学的に説明はつかないし、全然理屈としてはあってないんだけど。
ポール・マッカトニーが天候を変えてライブをしたっていう話もあって。ツアー中、どっかの公園で演る予定だったんだけど、その日は雨の予報で。でもそのライブは絶対成功させなきゃいけないから、天候をいじるマシンみたいなのに巨額の費用を投じて、そのライブを成功させたっていう。何やってんだろうっていう(笑)。
台風の目とか海底とか火山とかはすごいミステリアスなものでもあるから、死んでもいいからそこに行ってみたいって思う気持ちがみんなにあるのかもしれない。勝手にこっちの気分を盛り上げてくれるっていう意味で、ライブと台風って近い。台風って嫌いじゃないかな。人も出歩かなくなるし。台風の日に居酒屋でメシ食ってたりするとかなり気分アガるしね(笑)。(インタビュー/小野田雄)
iLLなプレイリスト~台風編~
1.T.REX“The Slider”(『The Slider』収録)
2.PJ HARVEY“One Line”(『Stories From The City , Stories From The Sea』収録)
3.SHED SEVEN“Ocean Pie”(『Change Giver』収録)
4.SHARKO“Bootleg of AC/DC”(『Meeuws』収録)
5.LUSCIOUS JACKSON“Deep Shag”(『Natural Ingredients』収録)