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第70回 ─ FISHMANS presents THE LONG SEASON REVUE SHIBUYA-AX 11月22日(火)2005年

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2005/12/01   15:00
更新
2006/01/19   18:38
テキスト
文/内田 暁男

茂木欣一監修のベスト・アルバム『空中 BEST OF FISHMANS』『宇宙 BEST OF FISHMANS』をリリースし、本年の〈RISING SUN ROCK FESTIVAL〉にて奇跡の復活を遂げたフィッシュマンズ。そんな彼らが新たに〈THE LONG SEASON REVUE〉と題したツアーを東京、名古屋、大阪で開催した。原田郁子、蔡忠浩(bonobos)、pocopen(SAKANA)、UA、ハナレグミ、山崎まさよしといったヴォーカリストが入れ替わり登場し、3時間に及んだプレミアムなライブの模様を速報でお届けいたします!


柏原譲

先頃リリースされたライブDVD「若いながらも歴史あり 96.3.2 @新宿LIQUID ROOm」同様、各楽器が音を重ねて徐々にグルーヴを形成するオープニングのなかメンバーを紹介していく茂木欣一。「THE FISHMANS!!」というキメのセリフもお馴染み。そのまま“Go Go Round This World!”に雪崩れ込み、茂木のピュアで躍動感たっぷりの歌声がドラムセットの向こうから聴こえてくる。〈ホントに確かだったのは一体なんでしょうね/時の流れはホントも嘘もつくから〉という佐藤伸治の歌詞が、今回の7年ぶりのプロジェクトとシンクロするようで、いま見ると余計にスゴイなぁと震えた。そして「本当に……特別な空間だね」と茂木がしみじみ第一声を漏らし、最初のヴォーカリスト原田郁子を迎え入れる。ここから一人3曲の宴がスタート。“Weather Report”ではポエトリーっぽく歌う部分に彼女独特のハマりを魅せ、「……嬉しい~!!!」という第一声のMCは、本当に心からのものであることが伝わってくる。オーディエンスもその想いは同じだ。続く、RCサクセションからの影響をレゲエ/ダブの文脈で昇華したような“いい言葉ちょうだい”を彼女が歌うとまるで切ない童謡みたいに聴こえた。タイからやって来たpod(モダンドッグ)の弾き語りで始まった“BABY BLUE”。つたない日本語ながら、その声の透明感は佐藤伸治に通じるもので、意味性ではなく音だけで捉えても佐藤の歌詞は流れるような気持ち良さを持っていることがわかる。podが歌詞を飛ばすほどの(?)盛り上がりを見せた“Smilin' Days , Summer Holiday”の後半では、ダーツ関口のスパニッシュなアコースティック・ギター(新機軸!)と木暮晋也のアグレッシヴなエレキ・ギターが白熱の絡みを見せる。蔡忠浩(bonobos)が登場しての“忘れちゃうひととき”が始まった瞬間の場内のどよめきにはちょっと複雑なものが見えたけど、pod同様歌詞を飛ばしたりしつつ、歌うのに精一杯といった感じの一生懸命な蔡忠浩のステージングは逆にフィッシュマンズへの敬意を感じる。“MELODY”“感謝(驚)”といったアップテンポな人気曲のあと登場したのはpocopen(さかな)。ジャズっぽくアレンジされた隠れた名曲“むらさきの空から”を完全に自分に引き付けて歌ったときのディープな表現力は戦慄もの。MCでの脱力具合との見事な落差もスゴイが、「pocopenさんにはフィッシュマンズ的なものを感じる」という茂木の言葉の意味は充分に伝わる真にソウルフルなヴォーカルだった。神秘的な“WALKING IN THE RHYTHM”のイントロに乗せて登場したUAは、その存在感、ヴォーカル両面においてやはり他を圧倒していた。鳥のような高音のフェイクを交え、〈冷たいこの道の上を回るように回るように歩きたい〉という歌詞のとおり、ステージを旋回しながら歌う彼女の姿はカリスマティックの一言。エンジニアであるZAKがトバすUAの歌声も最高の相性をみせていたように思う。フィッシュマンズのなかでもっともヤバイ曲のひとつであるスロウ曲“新しい人”に続く必殺バラード“頼りない天使”では、ステージ後方の暗闇に星空が出現し、UAは吸い込まれてしまいそうなヴォーカルで原曲の孤独でロマンティックで温かい世界観を表現。UAがボソっと呟いた「サトちゃんフォーエバー」という言葉が沁みる。そんな空気を陽気に変えたのが続くハナレグミの“MAGIC LOVE”。ハマりすぎな歌声はフロアを揺らし、往年を再現したような頭上で回転するライトの下で歌われた“ナイトクルージング”では桃源郷が出現したかのようにスピリチュアルな空気に包まれる。オーディエンスの合唱も壮観な“いかれたBaby”(柏原譲のベースがあり得ない)に続いて、40分の組曲“LONG SEASON”に突入(この流れは12月28日にリリースされるライブDVD「男達の別れ 98.12.28@赤坂BLITZ」と同じだ)。山崎まさよしはこの難曲に、粘り気のあるブルージーなヴォーカルで新風を吹き込む。中盤の、パーカッションであるASA-CHANGと茂木の壮絶な打楽器合戦、HONZIの陰影に富むヴァイオリン、ギター二人の激突など、あらゆるシーンが印象に残るが、静と動、聖と俗を描き切ったような演奏は、本当にアッという間に駆けていった。

鳴り止まないアンコールに応え、出演ヴォーカリストが勢揃いして演奏されたのは“チャンス”。この曲が収録されたファースト・アルバム『Chappie Don't Cry』のプロデューサーであり、佐藤が敬愛して止まないバンド、MUTE BEATのトラペッター、こだま和文がサプライズ・ゲストで登場し、静かに呟いた「サトちゃん、聞こえる?」という一言(これは実際曲の冒頭に入っている佐藤の言葉を意識したもの)を合図に演奏が始まる。そしてこだま和文が吹いたトランペットの音色! そこに宿っているものの〈深さ〉に言葉を失った。こればっかりはどう表現したらいいのかわからない。ピースフルな合唱の合間に煌めくフェイクを入れるUAをはじめ、出演者全員がこの特別な空間を満たす特別な空気をオーディエンスと共に思いきり祝福しているかのようで、これはもう踊るしかないって感じの大団円。結論。楽しかった。以上! よろしく!

▼上記参加ヴォーカリストの近作品