CMソングにもなった、10月のシングル“さみしがり屋の言葉達”、アルバム収録曲“のうぜんかつら”の2曲が大きな話題を集めた安藤裕子。そんな絶好のタイミングで開催されたワンマン・ライブを目撃すると、昨年のファースト・フル・アルバム『Middle Tempo Magic』から大きな飛躍を果たし、その歌力で多くのオーディエンスを魅了する彼女の姿があった!

MCで「昨日を通り越して一昨日から寝れなかった」と言うほどの極度の緊張しいであり、後ろ向きでオーディエンスに拍手を求めてしまうシャイぶり。初々しいというより大丈夫?とコチラが心配してしまうレベルだが、尻上がりに調子を上げていくキュートな歌声がそんな不安を徐々に忘れさせる。

山本タカシ(ギター)、TOKIE(ベース)、矢部浩志(ドラム)、山本隆二(キーボード)という鉄壁の布陣が放つサウンドは、彼女の歌声にイイ意味での緊張感をもたらしており、ただのポップスに終わらせないエッジを持ったバックアップぶり。とくに矢部とTOKIEのリズム隊はタイトかつうねるようなグルーヴで骨格を見事に支えていた。1月25日にリリースされるセカンド・アルバム『Merry Andrew』からの新曲も織り交ぜつつ、中盤に用意されたアコースティック・セットでの数曲はヴォーカルの説得力が際立つ内容で、自身がボソッと「この曲好きだな」と呟いた“星とワルツ”(7月のシングル“Lost child,”、『Merry Andrew』に収録)、隠れた名バラード“summer”(2003年のデビュー・ミニ・アルバム『サリー』に収録)と続く流れの切なさは確実にオーディエンスのハートを掴んだはずだ。『Merry Andrew』に収録の、赤裸々な歌詞とドラマティックな曲調が新境地をみせる新曲“愛の日”から、ミディアムテンポのなかでラウドにうねるバンド演奏に乗せ、彼女の歌もグングンと迫力を帯びていく。後半の本編ラスト“隣人に光が差すとき”“聖者の行進”(山本タカシのサイケデリックなギターが印象的)に至るときには、一心不乱に歌に没頭する安藤裕子の姿が〈必死さ〉とどこか静かでホーリーな空気感を共存させており、言い様のないエモーションが場内に降り注いだような不思議な感覚があった。
アンコールでは、『Merry Andrew』にも収録された話題の楽曲“のうぜんかつら”をキーボードと二人で弾き語り、まさしくウェディング・ソングでもあるミディアム・バラード“あなたと私にできる事”を披露して場内を祝祭感で満たした。彼女の曲名を借りれば〈ロマンチック〉なムードが堪らない。ここらへんはやはり初期のCharaを彷佛とさせる。女性的な情念とあっけらかんとしたキュートさ、客観的な自己プロデュース能力。そうした複数の要素が絶妙のバランスで溶け合った安藤裕子の世界。それをもっともよく表す、さまざまな表情を持った歌声は、オーディエンス全てを魅了したに違いない。
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