ある時はサイト・リニューアルの裏側で活躍するスーパー・プログラマー、ある時ははてなダイアリーに〈男のひとり飯〉生活を記録する独身貴族、そしてある時はヒップホップ/R&Bのプロモクリップ映像の世界(肉体)にトコトン魅せられる一男子……一瀬大志がレペゼンする筋肉映像コラム。その名も〈ブラックミュージック★肉体白書〉。今回は年末のリリースを控えるビッグ2、ソロ・アルバム発表前のファレル・ウィリアムス、映画主演も果たしたアウトキャストについて。
仕事中、ラジオ代りにMTVを流していると、腕っぷしの強そうなオッサンが〈ネリー節〉でノッシリと唄い上げてるプロモクリップに遭遇した。かたわらにファット・ジョーを従えていたりと、なんだか妙な貫禄を漂わせているところからして新人ではないのだろうけど、いったいこいつは誰? と最後まで見届けたところ、あのリッキー・マーティンだったから驚いた。数年前、大ヒットした“Livin' La Vida Loca”のクリップで、場面から場面へと軽やかに渡り歩いていた、つるつる肌に甘いマスクのラテン系イケメン・ボーイ。それが、いつのまにかマッチョなヒゲのワイルド系に変化していたとは……。
いまだ日本ではリッキー・マーティンといえば〈アチチ〉の元の人であり、ヒロミGO経由で認知されることが多い。それに加え、最近ではレイザーラモンHGが自身のテーマソングとして“Livin' La Vida Loca”を採用していたりと、本人が知ったら「まだやってんのかよ」とガックリ肩を落としそうな展開すらみせている。今回の新譜リリースに伴う〈汗の臭い120%〉のマッチョアピールは、そんな世界的アチチ・イメージをいいかげん払拭したいと思っている本人の強い意志の表われなのかもしれない。ただ、リアル・ゲイのみなさんからウェルカムされてしまいそうな危うい雰囲気が漂いつつあるのも事実なので、しばらくは予断を許さない状況が続きそうだ。
■ Pharrell Williams
一方、ノンケのBボーイ、Bガールに、いま最もお洒落なアーティストとして認知されているのが、この原稿が掲載される頃にも自身のブランドショップのオープニング・イベントという、これまたオシャレ感満載の来日っぷりを見せているファレル・ウィリアムス(32)だ。
日本における彼のモテ・ポイントはいくつかあるが、まず男女共通で挙げられるのが、あのアジアン・テイストすら感じさせる〈薄味の顔立ち〉であろう。その親しみやすい頭の刈り込み具合は、学年に1人はいた、陽に焼けたニキビ少な目のスッキリ系野球部員(おそらくショートあたり)を思い起こさせ、その永遠の高校球児風の面もちに、なんだかすぐに仲良くなれたりして、ひと夏の思い出を作れそうな感じすら抱かせてくれる。
また、原宿あたりのナウな男子の心をがっちりと掴んで離さない、その30代とは思えないズボンのズリ下げ具合や、へたウマなファルセットボイスとSF的シンセ節より作品から洩れ出てくる天然のローファイ感は、昼間スケボーで遊んでいるやんちゃな男子チームが夜通し部屋にこもってオモシロ実験をしてそうなイメージを喚起させ、その健全な〈男の子っぽさ〉に、胸をキュンと鳴らされた女子も多いことだろう。
マッチョ基準高めのヒップホップ業界において、あまり鍛えてなさげなナチュラルな肉体を割りと頻繁にさらけだしてる彼。己の色男っぷりを業界の枠組みの中でメタ的に演じている感があるところなどもまた、ヒップホップファン以外の女子のハートを射貫く隠しトリガーとなったに違いなく、いったんスーツを着るとR&Bシンガーのような見事なセレブ感を漂わせてしまうそのスリムな身体は、結果的に勝ち組指向のグラマラスなお姉さま方をも魅了するカタチとなった。
学ランを来て近所の学校の門をくぐっても、そのまま転校生として迎え入れられてしまいそうな青春感と、それをたまに裏切るセレブ感、そんなサブカル的〈負け組感〉とメインストリーム的〈勝ち組感〉が同居した彼は、まさにオタク逆襲の世紀の幕開けを飾るにふさわしいジャンルの垣根を越えたポップアイコンと言えよう。
■ Outkast
アウトキャスト。彼らもまたジャンルを越えて人気を博したヒップホップ・グループだ。ただ、ファレル(ネプチューンズ)と違うところは、それが以前からのファンの予想を越えたところで起きた現象であったということだろう。まさかあの2枚組『Speakerboxxx / The Love Below』でビルボードの1位を取るとは思いもしなかったし、ましてやグラミーの最優秀アルバム賞を獲得したり、徹夜明けの「めざましテレビ」でアンドレ3000のインタビューを拝む日が来るとは夢にも思わなかった。
その後わかったのだが、どうやらアウトキャストのプロモクリップは、普段ヒップホップに関心がないというか、むしろその紋切型のギャングスタな映像に不快感すら憶えていた層にまで届いていたらしい。彼らが日本でブレイクしたきっかけも、昨今のクリップを通して、アンドレ3000が〈オモシロ黒人〉として認知されたことが大きいと思われる。
そんなわけで、派手なアンドレばかりに目が行きがちなアウトキャストだが、アンドレがベースボールシャツを脱ぎ捨て、フリーキーな路線へとひた走ったときに見せたビッグ・ボイのマイペースっぷりもまた評価されるべきである。一瞬ロンゲのストレートにしてみたりと、そっち方向へひきずられそうになったものの、結果的にスタジャン路線に留まったビッグ・ボイのバランス感覚があったからこそ、文化系 VS 体育会系、いじめられッコ VS いじめっコといった分かりやすい構図が生まれ、南部のキワモノ・ラップユニットから、万人に受け入れられるポップグループへと脱却することができたのである。
一方、肉体的視点から見てみると、アンドレのカラダは、これまで彼が演じて来たキャラのイメージからしても、必要以上にマッチョであり、横に広い胸板は、水泳などのスポーツで鍛えたような感じすら漂わせている。まじめに女性崇拝とかやられた日には、プリンスなみのウェットなテイストを醸しだせそうな勢いだ。一方、脱がない方の人、ビッグ・ボイ。ジェイZタイプのジャイアン体型なのであろう彼は、己の見せ方も、その貫禄を活かす方向へと的をしぼりつつある。そしてその差異がまた彼らの魅力へと還元されるのだ。
陰と陽、アンダーグラウンドとオーバーグラウンド、ボケとツッコミ、その絶妙なバランスから沸き上がるポップさがジャンルを越えて支持されたアウトキャスト。12月に発売予定の新作『Idlewild』は、来年公開予定の主演映画「My Life in Idlewild」のサントラを兼ねているらしい。このままどこまでオーヴァーグラウンドな世界を突っ走ることが出来るのか、ファレルともどもその拡張っぷりを見届けていきたい。