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第65回 ─ 100s 〈The Tour of OZ〉@渋谷AX 2005年5月13日(水)

連載
ライヴ&イベントレポ 
公開
2005/07/21   17:00
更新
2006/01/19   18:37
テキスト
文/内田 暁男

アレンジ、詞世界を含め、高度にコンセプチュアルかつ抽象的な世界観をシンプルなロック・サウンドとして聴かせてしまう驚愕のファースト・アルバム『OZ』はどのように具体化されるのか? 100s名義としては初の全国ツアー〈The Tour of OZ〉の終盤戦に見たのはその逞しい回答であった!

 スティヴィー・ワンダー“Lately”、クラッシュ“Lost In The Supermarket”など、メンバー選曲の開演前BGMにも最新アルバム『OZ』を解く鍵が満載だが……やはり本編を見せられると、『OZ』に込められた立体的なコンセプトはより明確に伝わってきて、込み上げるものが押さえられない素晴らしいライヴだった。そしてまた、約2時間のなかにここまで濃密かつドラマティックな物語を描き出す100sというバンドの底力に感服した。


メンバーが円を描くように立つという意表を突いた緩やかなオープニングを経て、AC/DCのTシャツを着た中村一義がその中央へ移動。徐々に彼の歌声と演奏がライヴに大きな熱の渦を形成していく。ステージの後方に設置された6枚の縦長の鏡がメンバーの後ろ姿と、オーディエンスの熱狂を写し出す巧みな演出! 『OZ』からのナンバーを中心に据え、ところどころに中村一義名義の前作『100s』収録曲を挟んでいくという構成に、ある意味対になっているその2枚のアルバムの関連性がよりハッキリと浮かび上がる(すいません曲名書けなくてもどかしいんですけど)。実際中盤に披露された『100s』収録のあのミディアム・ナンバーがまったく新たな聴こえ方で迫ってきて、ちょっとヤバかった。各曲はライヴのストーリーのなかに組み込まれて演奏されることで、よりファンタジックな光を纏ったり、シリアスな表情を見せたり、スピリチュアルな願いを感じさせたりと、一方向に偏ることのない展開で起伏をつけていく。またアンコールで披露された懐かしいあの曲も現在のモードのなかで新たな輝きを放っていた。

小野眞一、町田昌弘という2人のギタリストがMCにステージアクションにオーディエンスを焚き付けまくり、中村一義はさらに歌うことに集中しているような印象を与えるのも、逆に100sというバンドの信頼関係や安定感を伝えていた(このへんは確実に以前と違う点)。また、ツイン・ギターのコンビネーションによる爆音が支配する激しいロック・サウンドながら、池田貴史のキーボード、山口寛雄のベース、玉田豊夢のドラムはきっちりと耳に残るし、なによりその中央に位置する中村一義のヴォーカルは求心力を増していた(魂がこもっているというのはこういうもののことを言う)。ヒリヒリとした緊張感とピースフルな雰囲気も絶妙のバランス。ことさらどこかのパートをクローズアップする演出も施さず、ほぼ全編ラウドなバンド・サウンドで押しきりながらも、終演後は一編のドラマティックな物語を味わった気分。100sは楽曲の高いクォリティーとプレイヤーの力量、そしてストーリー性を念頭に置いたであろう考え抜かれたセット構成というシンプルな要素だけで、心を激しく揺さぶる表現を生み出していた。オーディエンスそれぞれの現実に、確実に〈大きなもの〉を与えたであろうライヴ。