先月から始まった向井秀徳（ZAZEN BOYS）の語り下ろし連載がコチラ。毎回編集部が設定したシチュエーションにもっとも適する（と思われる）ディスクを向井氏に勝手に処方いただく、実用性に溢れたコーナーです。アナタの生活の一場面を、向井秀徳のフェイヴァリット・アルバムとともに過ごしてみるのはいかがでしょう? 第二回目のシチュエーションは〈部屋聴きwith 本命女子〉です!! 向井秀徳、かく語りき。
まずその〈この娘モノにするぞ! 〉とか〈口説き落とすぞ! 〉ていうのが基本的にないし、女子を部屋に呼んでバックグラウンドミュージックをかけることもない。なので今回は妄想でいきます。
まず設定は20年ぐらい前ですよ。相手の女の人として僕がいま想像してるのはかなり典型的な80年代の女子大生。名前は忍。ワンレン。もしくはボブ（笑）。眉毛ちょっと太くてヘアバンドみたいなやつしてる。で、男は外資系商社マンで名前は栄作。まず家に初めて来る前にデートでシャーデーのコンサートに行ってる。家に連れてくるときの文句としては「ケンウッドのレーザーディスク付きのミニコンポがあるから見においでよ」みたいな。もちろん部屋はフローリング。「どこでもいいから座ってよ」っつって。フローリングだからソファーもなんもない。地べたにライトとか置いてある。で、ケンウッドのミニコンポ自体の話で少し盛り上がったあとかけるのがシャーデーの“Smooth Operater”（『Diamond Life』1曲目）。グライコ（コンポの出音調整）のプリ設定は〈ナイトフライ〉ていうのにしてるんですよ（笑）。「音イイよねー」と聴き始める。
こちらが寿がきやみそ煮込みラーメン
当たり障りのない音楽の話とかしつつ想い出話を始めてちょっと深いとこに入っていく。〈昔失恋したことある〉ていう話になるわけですよ。コイバナ（笑）。「失恋してすごい悲しいときに聴いてた」っつって、ビリー・ジョエルの“Just The Way You Are（邦題〈素顔のままで〉）”をかける。ベスト盤『Billy The Best』。（おもむろにかける）……この曲で自分の失恋話とかするとかなり感情移入しますよ。この曲の何がいいかっつったらエレクトリック・ピアノにかかってるフェイザーみたいなリヴァーブ。これがすごい透明感がある。……ヤラしいですねサックスが。菊地（成孔）さんとかにバリバリ陶酔して吹いてほしいですよね。お手のものでしょう? ていうかやってたんじゃないですか? 菊地さん。80年代に。段々深い話になってきて、けっこうここで距離が近まる。で、「いまは忍ちゃんが目の前にいてくれるから幸せだ」と。まぁある意味告白ですわね。だけど告白してる時点で忍ちゃんはもうわかってるわけですよ。で、「私も栄作君のことを好きだった」と。「あのサークルで苗場行ったときから好きだった」と。告白が成立。
男は気分ノってるからくさーいことを言わないかんですよ絶対。「忍（註：もう呼び捨てになっている）の今度の誕生日、実は内緒で赤プリ取った」とか「あそこ三ツ星のシェフがいるから、そこでゴハン食べよう」とか「赤プリの夜景を二人で見ると幸せになるらしいよ（ウソ）」とかそういうことを言わないかんですよ。で……ブチュウ!といくわけだ。フローリングの間接照明の下で。もうムードがうまくいきすぎてるから、男のほうとか半ばトランス状態になってる。栄作は（笑）。でもブチュウ!といったときにさっき忍がつまみで食ったビーフジャーキーの匂いがちょっと気になって一瞬冷める。で、いかんいかん、ムードをさらに盛り上げようとケンウッドにおもむろに差し込むのがマーヴィン・ゲイの“Please Stay”（『Let's Get It On』の2曲目）。このアルバムを流しっぱなしにして、「あっちの部屋行こうか」っつって真っ黒いシーツのマットレスになだれこむわけです。そのまま結ばれて眠ってしまって、ふと栄作が目を覚ますわけです。朝日がばーっときてるわけだ。コーヒー湧かしてる彼女が見える。もちろん栄作の白いシャツ着てる（笑）。うっすらと流れてるのがまたビリー・ジョエルの〈素顔のままで〉。朝の風景とマッチングして栄作、幸せの絶頂、みたいな。そしてその朝の風景の一年後。〈素顔のままで〉を流してチャペル・ウェディング（笑）。ていうストーリー。
で、これが現代だったら、Rケリー流してれば間違いないです。いちばんエロイのは『TP-2.COM』。マーヴィン・ゲイに近いのは『Happy People／U Saved Me』。『Chocolate Factory』もそうですけどね。（インタビュー／久保田泰平）
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