トーリ・エイモスのニュー・アルバム『The Beekeeper』は、トーリ自身の独創的な母性観から創造された作品だ。それは今作のテーマに顕著である。すなわち彼女の倫理観やキリスト教的概念と彼女独自の神秘的な哲学によって生み出された〈6つの庭園〉に添ってさまざまなドラマが展開されているのだ。
「アルバムを聴くと、どの曲がどの庭園を表現したものかがわかるはず。庭園は〈エデンの園〉であり、それぞれ違う形をしているわ。いわば〈音の形〉。だから誰でも入ることができるの」。
トーリといえば92年のデビュー以来〈詩的・知的・官能的〉といった評され方をしてきたシンガー・ソングライターである。しかし近年はあきらかに楽曲へ神秘的な思想が色濃く反映され、より一層女性の持つ脆さ、儚さ、激しい感情の発露などを生々しく表現し、鮮烈な説得力で独自の世界観を提示してきた。ここでキーになるのもやはり〈母性〉である。
「ええ、自分が母へと変身したことが大きいのでしょう。私たちはよく話し、調和し、母と娘としての均衡を保っているわ。私が幼かった頃から歌が教えてくれようとしていた音とのダンスを、娘と共に踊っているかのようで。そしていま、娘が音楽への愛を通して私に教えようとしてくれているの」。
『The Beekeeper』とは〈蜂の巣の守護者〉という意味である。無数の規則的なヘクサグラムの中で秩序と生命を維持する蜂たちを、トーリは人類の営みに重ね合わせ、問題を提示してみせる。
「生命を世代から世代へとたゆまず継続させるため、大衆は次世代の声に耳を傾けようとしなかったのではないかしら。母親たちは選択を迫られるわ。息子を戦争に送り込み、息子の生命を危機にさらしても平気なの?とね」。