MAESTRO strikes back!! NYクラブ・カルチャーの勃興、パーティーの始まりと終わり、そして……

〈人々はアンダーグラウンドに理想郷を見つけた〉──それは、現在まで脈々と続く地平、クラブ・シーンでの出来事。76年、NYに約3,000人のキャパシティーを持つ〈Paradise Garage〉という名の会員制クラブがオープンしてから、その終焉となる87年までレジデントを務め、現在第一線で活躍する多くのDJが影響を受けたと公言する伝説のDJ=ラリー・レヴァンに関するドキュメンタリーを中心に、その師匠的な存在にして17歳で〈The Gallery〉というクラブをオープンさせたニッキー・シアーノや、ラリーにも多大な影響を与えたプライヴェート・パーティー〈The Loft〉の主宰者であるデヴィッド・マンキューソの語りを交え、世界で初めて2台のターンテーブルを用いてDJミックスという手法を世に広めたフランシス・グラッソや、〈Paradise Garage〉の元スタッフ、フロアでのガラージ・サウンドをもっとも良く知る当事者ともいえるダンサーまでもが登場する、ありそうでなかったタイプの作品が「マエストロ」だ。
前半は上記の人物や、ルイ・ヴェガ、トニー・ハンフリーズらによるガラージ賛歌が繰り広げられるのだが、フランソワ・ケヴォーキアンによる涙目と深刻な面持ちでの語りから物語は一変し、ドラッグやHIVにまつわるガラージの陰の側面へ突入していくあたりは興味深いところであるし、それら約90分の本編に対して200分を超える特典映像では、学生時代からの友人であるフランキー・ナックルズによる暴露的な話、デヴィッド・マンキューソによるマニアックすぎる音響哲学も観ものだ。ラリー・レヴァン~〈Paradise Garage〉周辺の音楽としてNYCピーチボーイズ、アーサー・ラッセル、グウェン・ガスリー、スライ&ロビーあたりにまで話が及んでいないのが残念といえば残念ではあるものの、インタヴューのバックで効果的に流れる挿入曲の素晴らしさは言うに及ばず、〈ガラージ〉と呼ばれる音楽の源流、その後の発展を知るにはもってこいのドキュメンタリーであることは間違いない。
▼入手が容易なラリー・レヴァン作品の一部
▼ 本編に登場する〈マエストロ〉たちをご紹介!!
LARRY LEVAN
〈ガラージ〉の語源にもなったパーティー〈Paradise Garage〉の看板として10年間レジデントを務めたカリスマDJ。さまざまな音楽に独自のイコライジングを施し、ストーリー性やメッセージ性豊かに流れを作っていくような彼一流のDJプレイは、以降に現れた世界中のDJに多大な影響を与えたとも言われる。リミックス/エディット仕事も多数。92年に心臓麻痺で他界。
FRANCIS GRASSO
NYでパーティー〈The Sanctuary〉を主宰。68年に2台のターンテーブルを用いたDJミックス(チェンジ)を披露した最初のひとりとされ、〈The First Modern DJ〉と賞される。
FRANKIE KNUCKLES
デフ・ミックスの大ボス。ニッキー・シアーノに学んだ後、70年代後半にシカゴへ移り、〈Warehouse〉でのプレイで一躍名を馳せた〈ハウス・ミュージックの父〉。
DAVID MANCUSO
70年より〈The Loft〉を主催し、今日のあらゆるアンダーグラウンド・パーティーの礎を築いた存在とも言われる。レコードの原音的な再生を追求したオーダーメイドのサウンドシステムでも知られ、真の意味でカテゴリーに囚われないロマンティックな選曲で音楽に向き合い続けてきたDJ。75年に世界初のレコード・プールを設立した人物でもある。何度かの来日経験もあり。
FRANCOIS K
75年にフランスより渡米し、NYの〈Galaxy 21〉にてDJを開始。プレリュードでA&Rとして活躍する一方、〈Paradise Garage〉や〈The Loft〉〈Studio 54〉などでプレイし、圧倒的なテクと縦横無尽な選曲で支持された。以降も最前線で活躍し、90年代は〈Body & Soul〉、そして2000年代は……隣のページへ!