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第16回 ─ 年末特別企画! 菊地成孔が2004年の音楽界を振り返る

連載
CDは 株券 ではない ― 菊地成孔の今月のCDレビュー&売上予想
公開
2004/12/24   21:00
更新
2006/08/16   19:56
テキスト
文/ヤング係長

今回の「CDは株券ではない」は、昨年に引き続き特別インタビューを掲載! DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENをはじめ、数多くのバンドを率いるかたわら、文筆活動や東大講師までを務める日本音楽界のトリックスター、菊地成孔がシングル・チャート・トップ20を片手に2004年の音楽界を総括・アナライズします。

――こちらが今年のシングル・チャート・トップ20です。今回は過去10年分のシングル・チャートを用意してきたんですが、年々ミリオン・ヒットの数が減ってきているんです。去年が“世界にひとつだけの花”1枚で、今年はついにここ15年で初のミリオンヒットなしの年なんですよ。

うわー、ほんとだ(笑)。全体の数字も綺麗に減ってきているね。これは面白いわ。これじゃあ俺も大目に予想してしまうわけだよね。そりゃ予想も当たらないわ(笑)。

――このチャートと今年のチャートを照らし合わせながら分析をお願いしたいと思っております。

  今年はね、この連載やってるおかげでアーティストの名前は随分憶えたんだよ。でも曲名までとなると、トップ20を見ても1位の平井堅“瞳をとじて”くらいしか知らないなぁ。

――83万枚売れた平井堅のこの曲は第8回で予想していただいていますよね。

あの時は予想よりも売れたんだよね。でもね、数の問題はともかく大ヒットするとは思った。この人は大サービスの人なんだよ。日本人が一番好きなのは笑わせてくれて、さらに泣かせてくれる人なんだ。笑わせるだけでも泣かせるだけでもダメ。その両方がないといけないんだよね。この曲は歌いだしの「朝 目覚めて」というフレーズを「あさ めさめて」と歌っているんだよ。あれは笑われるよね(笑)。バラードの中で自分からモノマネされる要素を入れているんだよ。それって「ここ! ここ!」って自分から笑われる部分を計算して入れているってことでしょ。感心したもん。

――この曲は「世界の中心で、愛をさけぶ」の映画版の主題歌だったんですよね。ドラマ版の主題歌は柴咲コウが歌っていて、そちらはチャート6位に入っています。

  タイアップの効果がこんなに出るとは思ってなかった。でも今年はセカチューは別格だったということだよね。そこに乗った平井堅も堂々たるものでさ、演劇の用語で座長役者のことを〈一枚目〉っていうんだけど、そういう一枚目感みたいな風格があるよ。「私がベタでもやりましょう。モノマネもされましょう。それで1位になりましょう」っていうさ(笑)。

――2位はミスチルですね。3位は平原綾香“Jupiter”。彼女についてはどう思いますか? 「一発屋ではない」と書かれていましたけれど。

彼女はさ、ホルストの“木星”を聴いたときに「この歌を歌うのは私しかいない」という選ばれし者として啓示を受けたという自覚があったわけでしょ。それがレビューで扱った7月には、プレスの資料が「天然です」っていう方向になっているわけよ(笑)。そのプロフィールに好感を憶えたんだよね。

  でもね、天性の声の良さはあると思った。連載でも書いたけど、ちょっと古内東子に似ているのよ。古内東子は黒人音楽の文脈から見ても、日本のシティーポップスの文脈から見ても相当力がある人だと思っているからさ。彼女の音楽を聴くと「俺の力の及ぶところではないな」という気持ちにさせられるんだよ。それで、その次に行けるんじゃないかって思ったんだよね。ミスチルが20位以内に2曲入っているのはまあ、快気祝いだよね(笑)。

――“花”が4位に入っているオレンジレンジは以前予想していただきましたが、今年大きなブレイクを見せたアーティストです。

  うん。彼らは今も沖縄に住んでいるんだよね。やはり沖縄出身であるということが相当大きなフックになっているはずだよ。去年も言及したけど、国土が狭いためにありえなかった日本のローカル・ミュージックが、沖縄出身のアーティストに限って唯一認められている状況なんだよね。基地問題や沖縄返還がシリアスじゃない世代による沖縄っていうのはただのリゾート地でしょ。しかもなんか、ポリティカルな問題よりも、アミニズム的な問題のほうを身近に感じてたりするんだよ。そういう意味ではリスナーは〈とても素晴らしいところの住人〉という付加価値を付けているんだろうね(笑)。もちろん、ルックスとか音楽性が最重要なんだけどさ。

――あとは、サザン・オールスターズの“君こそスターだ”が8位というのも……。

  この曲知らないなぁ。本当かこれ(笑)。サザンも“TUNAMI”までの数年間はチャート的には隠遁生活に近い活動をしていたけど、復活してからもう居座っている。でも、例えばアメリカと言わず、世界中にエルヴィス・プレスリーのマニアは現役でいるわけでさ。まあそういう人たちがいつ盛り上がるのかというと、命日とそっくりさん大会なんだけど(笑)。そういう人たちの存在を考えれば、サザンとユーミンはしょうがないというか、その層はずっと永遠にいるべきだと思うね。

あれ、この“桜”っていうのは森山直太朗じゃないの?

――違うんですよ。これはまた別のシンガー・ソングライターの曲なんです。

  わはははは、ほんとだ(笑)。だって森山直太朗の“さくら”って去年の話だろ。おっさんみたいなことを言わせてもらえば、〈さくら〉っていうのは特攻隊のことなんだよ(笑)。「命あるものは散っていく」、「美しくパッと散ろう」っていう感じで、特に太平洋戦争中には悪用された言葉だよ。〈同期の桜〉って言ってさ。それが2年連続でチャートに入ってるのはまずいよ(笑)。そんなに儚く美しく散りたいかね(笑)。

  あとは、浜崎は10位以内には入っていないけど、20位以内に3曲入って一番売れたのが32万枚か。微妙だよね。彼女はかつては絶対者の地位を手に入れていたわけだ。それが最近はテレビでトークショーやったりして、大衆化を図ってセールスを戻そうとしているようにも、カリスマであることが苦しくなって人間宣言したようにも見えるけど、とにかく数字としては大衆化のおかげで1位になることができなくなったように見える。俗転に失敗。といえば簡単だけど、意外と本人は俗転に成功。と思っているかも知れないよね。絶対者の心理は微妙だからさ。

しかし、こうして見ると混沌の時代だよね。混沌であると同時になにも変わっていないとも言える。百年一日というかさ(笑)。今更だけどやっぱりね、チャート誌を毎週チェックしないと売り上げ予想は難しい(笑)。「何枚売れたか」は、情報が波及していくときの波みたいなものが重要であってさ、楽曲のいい悪いはあまり関係ないんだよ。その波にどのくらいの強度があるかということなんだ。〈売り上げが音楽のクオリティと関係ない〉っていうことになると、音楽評の中では最もオーディナリーでつまらないものになってしまうわけで、〈音楽の内容はさておきどれだけ売れるのか〉という話になるとチャート誌になる。結局、〈音楽の内容ありきで予想するけどハズれる〉ということをやり続けるしかないわけだよね、この連載では。これは一種の批評実験でしょ(笑)。市場経済に対する(笑)。

※ 12月21日付けでオレンジレンジの“花”のミリオン達成が発表されましたが、このインタビューは03年12月1日~04年11月29日までの売り上げを元に行われています。