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第14回 ─ 織田裕二、CHEMISTRY、鬼束ちひろの3枚を分析!

連載
CDは 株券 ではない ― 菊地成孔の今月のCDレビュー&売上予想
公開
2004/11/04   13:00
更新
2004/11/04   15:21
テキスト
文/菊地 成孔

DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN、SPANK HAPPYなどの活動や、UAやカヒミ・カリィ他数多くのアーティストのサポート、また文筆家としても知られる邦楽界のキーパーソン、菊地成孔が、毎月3枚のCDを聴いてレビュー。そしてそのCDの4週間での売上枚数を徹底予想します!

 当欄読者の皆様こんにちは。我が国の株券が3曲入りCD-Rに成る日を目指して、不惜身命の意気込みで売り上げ予想する当連載ですが、最近めっ

 最近めっきり寒くなって参りましたが、体調など崩されていらっしゃいませんでしょうか。とはいえ、菊地さんは日記で私生活を披露されていらっしゃるのでなんとなく状況は把握しているのですが。

 うわわわー!いきなり書き出し取られちゃったよ!当欄の神の声。編集のHくんじゃないか!!「喋りが入った録音テープだろう疑惑」について、今回こそちゃんと答えて貰うよ!!うーんそうだなあ。僕は昨日、カヒミ・カリィさんとライブがあってね。代官山で。それで、サウンドチェクの時にさ、楽器を持とうとして屈んだ瞬間に、いきなり腰に激痛が走ってね。すわギックリ腰か!と思って超ビビったんだけど、どうやら歩けるからギックリ腰ではないな。じゃあヘルニアかな。それもやだなー。と思ってね。ふふふふふさあどうだ。答えられないだろう録音テープならば。

 (……………………)

 やっぱり録音テープだな。何せ腰を痛めたことは日記でも伏せているからねえ。今初めて言ったんだから、今リアルタイムで聞いてないと返事が出来ない。だから黙っているんじゃないかね?どうだ。

 (……………………)

 ふふふふふふ。我ながら名探偵コナンくんや金田一少年のような推理力だな。41歳だけど。とはいえこれで、録音テープ疑惑ははっきりと白黒つ

 そうですか。お大事に。

 うわわわー!返事したぞ!やっぱり物陰に隠れて喋っていたんだな(笑)。いやあ焦ったよ、でも〈ギックリ腰〉っていう名前もないよねー。昔、爆笑問題が「イタイイタイ病という名前は酷い。それだったらジンマシンはカユイカユイ病だし、統合不全はウヘヘヘ。ウヘヘヘ病だ」とか言ってたけど、それと同じだよなー。ギックリ。ってのは無いよね。それだったら群発性偏頭痛は〈ズッキン頭〉だし、鬱病は〈ガックシ心〉だし、ウィリス動脈輪閉塞症は〈もやもや病〉じゃないか!って、それは本当にあるんだよっ!!

どうだ!

 さて、今月の答え合わせであります。

 あれ?どうして?ダメ?(滝汗)最後の例が身体の部位じゃないから、ちゃんとオチてない事は解ってるよ!でも!……

 さて、今月の答え合わせであります。

 えー。不謹慎すぎたかな。でもこれは……

 ささささささささて、今月の答え合わせでありま。でありま。であります。

 あ。テープじゃなくてサンプラーだ。誰だスイッチ押してるのは……まあHくんだと思うけどね。良いよ。じゃあ、「そうですか。お大事に」は、いつサンプリングされたのか。という辻褄の合わなさを平然と流しつつ答え合わせしようじゃないの。今回は自信があるもんね。何せ連載開始以来もっとも「当てにゆく」つもりで、真剣に予想したからなあ。ふふふふふふ。


■aiko “花風”
 予想枚数 84,200枚 → 109,368枚(発売4週目)

■ポルノグラフィティ “シスター”予想枚数
 84,200枚 → 188,730枚(発売4週目)

■KREVA “音色”
 予想枚数 84,200枚 → 39,105枚(発売4週目)
  ※オリコン調べ

 前々回は全ての予想枚数が84,200枚という、読み手の「当たるわけねーじゃん!」という予想を「心の声に忠実だから大乗仏教!」の一言で蹴散らしつつ強引に進めた回でありました。が、またしても……、というかやはり全ハズレでありました。〈保守派〉のaikoとポルノグラフィティは10万枚の大台突破(ポルノは現在さらに売上を伸ばして20万台超え中)。「恋愛誘発係数がaiko以上」と菊地さんに評された〈革新派〉のKREVAは残念ながら予想枚数の半分にも届かず、という結果でありました。

 えー(呆然)。マジでか~。もうわっけわかんねえよ。日本のチャート。マジで全部84,200枚ぐらいだと思ったんだけどなー。

 やはりCD売上予想も博打も一点買いは禁物、ということが言えるのではないでしょうか。

 しまった!(笑)至極当然なことを言われてしまった(笑)

 でも、もうわかんないや。“花風”が11万、“シスター”が19万、KREVAが4万て。もう全然、予想する気も起こらない。「aikoみたいなのは、何出しても絶対買う。って人が10万ぐらいいるんだろうなー」とかオリコンみたいに予想するのは出来ないし、詰まらないもんなー。何か新しい予想基軸ないかな。そうだ。口調と気持ちを変えてみよう(笑)。丁寧な口調と、みんながんばれ。という優しい心のお陰で当たらないんだ! そうだ!(笑)今回は毒舌だ!さあこーい。

 今月の予想ディスクは織田裕二、CHEMISTRY、鬼束ちひろの3枚であります。いずれも安定した売上を見せているアーティストなので今更感もありますが、簡単な説明をさせていただきます。

・織田裕二
  あの織田裕二であります。今作はワム!のクリスマス定番ソング“Last Christmas”をカヴァー、さらにカップリングはワム!の“ウキウキ・ウェイクミー・アップ”です。なぜワム!なのか? というか、そもそもなぜ織田裕二は歌を続けているのか?という疑問が残ることは残るのですが、この曲は月9の同名タイトル・ドラマの主題歌となっているので、大きなヒットが期待できそうです。ちなみに彼は、役者としてのデビュー作「湘南爆走族」の挿入歌からはじまり今作のフジ月9ドラマ主題歌まで、ほぼ全てのシングル曲がタイアップ(オリジナル・シングル23枚中22枚)、というタイアップの怪物みたいな男であります。あります。あります。

・CHEMISTRY
  ファースト、セカンドと2枚続けてアルバムを200万枚売り上げた怪物グループです。今作は、前アルバムより彼らの新路線を担うブレーンとして手腕を発揮しているSPANOVAが作曲を担当しております。新路線を築いた3枚目のアルバム以降、正直なところ売り上げが落ちてきてはいるのですが、この曲はサントリーウィスキー「角瓶」CMソングというタイアップもあるので、どのような動きを見せてくれるのか楽しみなところです。ところです。ところです。

――CHEMISTRYの近作
  04年7月発売シングル “mirage in blue/いとしい人” 20 88,940枚(発売6週)

・鬼束ちひろ
  荘厳というか、霊的というか、そういった評価のされかたをしているシンガーです。声帯を壊し約1年のブランクを空け、さらにレコード会社を移籍した後の復帰作ということもあり、今作はかなり力が入った作品となっている模様であります。待ち望んでいたファンも多いのではないでしょうか。00年発売のセカンド・シングル“月光”は50万枚のセールスを記録しております。おります。おります。

 なるほど。ではHくんのサンプラーに入った声を聞ききながら、早速、毒舌実験を行ってみよう。当たると良いのだが。

■織田裕二 “ラスト・クリスマス”

  織田裕二は〈タイアップの効果と限界〉とか〈ゲイであるという根強い噂はどうなっているのか?(今回、ワム!のカヴァーという、これみよがしな選曲だし)〉とかいった、結構重要な問題をはらんだ、非常に重要なアーティストであることは間違いない。

 しかし、一番僕が知りたいのが、織田裕二の〈シンガーとしての自我のありかた〉であって、これは実は、ライブに行くことで一番良く分かるので、機会があったら是非行ってみたい。この人は音楽をどのように捉えているのか?すごく好きなのか、仕事の一部として、平然とやっているのか。僕の友人のOLが彼の狂ったようなファンで、ライブに行ったのだが、「あまりの自己愛ぶりに辟易して帰ってきた」と言っていたけれども、そのぐらいはわざわざ行かなくても解りそうなものだ。スター俳優なのだからして。自己愛に支えられているものは、〈キャンプに成る可能性も含めて〉だけど最強だ。僕は彼の演技している姿は見たことがないから解らないが、〈平均的なカッコ良さ。を、全く照れずに熱唱する〉歌い方は、音楽がもの凄く好きか(自己愛の直接的な投影)か、音楽を仕事と割り切ってある程度楽しみながらやっているのか(自己愛の屈折した投影)判別がつきにくかったからだ。

 音楽自体は別にどうでも良い。世界的な有名曲を、面白くも何ともないアレンジ(若干ロックっぽくなっているのが、どういう事を訴えたいのか、全く読めない。〈適度なロックっぽさ=安全性〉としか思えないのは、僕がロックを、体制癒着型の国民音楽と考えているからだろう。〈ロックンロール精神〉というものがあるとすれば、その正反対まで行けるのが〈適度なロック〉だ。毒薬が〈適度に盛られれば〉抵抗力の付く良薬となるのと同じだ)で録音してあるだけだ。この堂々たる「どうでもよさ=適度なロック味=お茶の間的な安定感」は、スター独特の物で、視点さえ変えれば、最も難しく、素晴らしい物だとも言える。これに比べれば〈良いセンスで今っぽい感じの物〉を作るなんて機械作業に感じられなくもない。だから、これを捕まえて、80年代リヴァイバリーの話とか、ゲイ・カルチャーの話とかしてもしょうがない。でも売れるに決まっている。日本人は三度の飯よりテレビドラマが好きだからだ。11万枚

■CHEMISTRY “LONG LONG WAY”

  この、とにかく真面目に努力して、仲間を愛し、友との再会を心から慈しみ、曲もアレンジも作詞もポップでハイグレードな、非常に高い歌唱力の二人組は、何も悪口が言えない。という大欠点があり、どうして良いか分からない。

 誉めるにしても「友情をテーマにしているのだが、ちゃんと楽曲全体からその事が伝わる。というのは、出来そうで出来ないことだ」とか「軌道再修正大成功」とか言うしかない。〈友が大切である〉事は、現代日本にとって、かなりメジャーなテーゼだ。もうどうしようもない。前の曲は全く覚えがなかったから9万だったが、今回の曲は失地回復の策が全部上手く行きそうな強度を感じる。とはいえ、そもそもこのキャラクターはどうなの?よく意味わかんないんだけど。という(これはチャゲアス、狩人、クリスタルキングなど、男のデュエット・チームの伝統でもあるのだが)、最初から払拭できない気持ちが、そろそろ〈理由もない好意〉から〈理由の解る醒め〉に変わりそうな気も同時にするのと、結婚した〈良い男〉の方の眼の下のクマが、マリッジ・ブルーとか忙しいとかいうレヴェルじゃない、尋常成らざる物を感じるので19万枚

■鬼束ちひろ “育つ雑草”

  僕はこの人がデビューしたときから、裸にしか興味がなかったから(体が異常に良く思えたからだ)、とにかく一日も早くおかしくなるか落ちるかして脱いで欲しいとばかり願っていた。歌を歌う、特に女性が、自意識を覚醒者、絶対者、降臨者、霊能者、後なんでもいいけど、そういう風に感じて疑わないことがどれほど罰当たりで危険なことか、ほとんどの人が知らないのではないか? キリスト教徒が、歌いながらマリアが見えたりジーザスが見える、仏教徒が歌いながらシッタルダを感じる。それならいい。ちゃんと伝統で保証された共有的なイメージがあるのだから。だけど、国教が無いに等しいこの国で、自分を、たかが歌手風情が〈絶対者〉〈救済者〉などと思いこんだ場合、それは自己イメージの形を取り、撞着的にならざるを得ないので、とんでもないことになる。新宗教であり絶対宗教であるオリジナル宗教のイコンになるわけだから。前歯から鼻腔の中央部当たりで共鳴させる歌唱法も(自分で物まねしてやってみると解るが)宗教的な殉教者であるが如き極度な自己愛でもないとあんな声の出し方はしない。絶対この人はバチが当たるぞ。と思っていたら、声が出なくなった。

 そしたら、何と嬉しいことに〈セクシー派に転向〉だそうで、僕は願いが叶って大喜びだ。なあんだ。みんな同じ事考えてたんじゃん。と思った。ところが、CDのオマケにセミヌードの写真すら着いてない糞ハンパなセクシー派なのである。音楽は、バチが当たってヘコんだか、実際喉が壊れたせいか、歌い方に癖が無くなり、ちょっとナンパな(椎名林檎みたいな。というかな。椎名林檎のセクシーさならオーケー。だとでも思ってるとしたら再びバチが当たるだろう)ロックン・ロール・ナンバーで、悪い曲でもないけど、凄いのは詩だ。〈絶対者/救済者〉感覚と〈負け犬セクシー〉感覚が、焼きそばパンの様に強引に混在しているのである。この、完全迷走状態の詩だけ面白いんだけど、僕が面白いなんて思ってる物は売れないから3万枚