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第38回 ─ 平井堅『Ken's Bar』、5周年のメニューは?

[実況]『Ken's Bar』の夜は、こうして更けていく(マスターのひと言付き!)

連載
360°
公開
2003/12/11   12:00
更新
2003/12/11   18:25
ソース
『bounce』 249号(2003/11/25)
テキスト
文/宮内 健

THE ROSE  重たい扉を開くと、若いピアニストが小粋なプレイを聴かせていた……ジャズ界の新星ピーター・シンコッティによる“even if”のインストに導かれカウンターに。まず口にしたのはベット・ミドラー“The Rose”。「とにかく好きで、なんでこんな詞が書けるんだろうって唸ってしまう。この曲はなんとしても歌いたかった」。キリッとしたジンの味わいが喉をつたう、ホワイト・レディーのような爽やかさ。

ONE DAY  喉の乾きは癒えたけれど、もう少し爽快な味わいが欲しい。そんな気持ちを察したように差し出されたのはKUWATA BAND“ONE DAY”。「桑田佳祐さんは、やっぱり僕の青春っていうか、人生を振り返ったときに絶対外せない。あんまり影響が表に見えないって言われるんですけど(笑)」。甘酸っぱい柑橘系のさわやかさの向こうに日本酒独特のコクもある、サムライみたいな喉ごしだ。

LOVIN' YOU  ちょっと趣を変えて……saigenjiのギター伴奏に乗せて歌う、ミニー・リパートン“Lovin' You”。「女性ならではの情念や切実な感じがある〈女唄〉が僕は好きで、その代表的な感じの曲ですね。saigenjiさんはリズム感もすごいし、ヒューマンなところがあるのもいい……ホント天才ですね」。甘いファルセットとブラジル風味のギター・プレイが巧みに融合した味わいは、まるでカイピリーニャ。


“What A Wonderfil World”を収録したルイ・アームストロング『And His Friends』(RCA)

WHAT A WONDERFUL WORLD  やわらかな口当たりが通の間で評判のアルゼンチン・ワインを堪能しつつ、フアナ・モリーナをギターに迎えた“What A Wonderful World”を。「彼女の歌もギターも、ホントに大好きで。初めて他人の歌のためにギターを弾いたそうなんですけど、スタンダードを弾いても思いきりフアナ色の音になってて。僕も、いかに自分色で歌うか?っていうせめぎ合いでしたね」。

You've Got A Friend  マスター=平井堅の敬愛するダニー・ハサウェイがロバータ・フラックと歌ったキャロル・キングの名曲を、ダニーの愛娘レイラ・ハサウェイと共演。「声の厚みや温かみは、この親子でしか出せない感覚がある」。不思議な邂逅によって生まれたこのデュエットで、お酒の味も涙の味に……。

大きな古時計  国民的ヒットとなったこの曲が、矢野顕子のピアノによって、また新たに生まれ変わる。「矢野さんだったらいい意味でぶち壊してくれそうだし、違う感覚を与えてくれると思って……ホント、ご自分の世界を持ってる方で、完全にこういうカタチにしたいっていう青写真が、彼女のなかで出来上がってるんでしょうね。その迷いのなさが素晴らしくて」。……すいません、チェイサーください。

FAITH  チェイサーで酔いも少しすっきりしたところで……ブルージーなアコースティック・ギターとパーカッションが腰を揺らす、ジョージ・マイケル“Faith”。「原曲自体、当時のジョージ・マイケルが持ってたようなエッチな感じがあったんで、それをいかによりイヤらしくするか?っていうのを心掛けてみました(笑)」。そして、ついつい勢いでオーダーしてしまう、セックス・オン・ザ・ビーチ……。

When You Wish Upon A Star  気分が上がってきたところでゴキゲンな曲でも。リクエストは“When You Wish Upon A Star”(星に願いを)。「ジャジーなものを一曲入れたいなってことで。4ビートのアップテンポな感じにしようと思って、ピアノをクリヤ・マコトさんにお願いしました。念願のスキャットもやれて、楽しかった!」。そのウキウキぶりにつられて、グラスもすすむ。ワン・モア・バーボン!

ABC  バーボンの薫りと紫のケムリに包まれて……ジャクソン5のこの曲も、なぜかブルージーに聴こえてきた。「この曲はどう歌おうかいちばん迷った曲で。こういうスクール・ソングを31歳のおっさんがどう歌う?って迷ったところもあったけど、“Faith”のようにちょっと泥臭い部分を出したほうが、今の自分が歌うにはしっくりくるんじゃないか?って思って。実際にやってみたらしっくりきましたね」。

Don't Know Why  すっかり酩酊した身体にじんわりと染みてくる、ジェントルな歌声とギターの音色。ノラ・ジョーンズの名曲を、作者であるジェシー・ハリスの伴奏で。「ジェシー自身も弾き語りでこの歌を歌っていて、好きでよく聴いてたんです。この曲をNYで録り終えた直後にあの大停電があったのも印象深いですね」。……ん? なんか真っ暗だぞ? 「お客さん、閉店だよ!(芦川よしみ風に)」。

見上げてごらん夜の星を  冷たい北風が酔い覚ましの頬を射す。見上げれば満天の星空が……坂本九の名バラードで、時を超えた共演が実現。「歌声が切実というか、全身全霊を込めて歌ってる感じがして……ソウルですよね。最初はアレンジし直すことも考えたけど、その当時の音や空気も消してしまうことになるので、彼の歌った時代に僕がタイムスリップして歌う、っていう感じにさせてもらいました」。

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