西海岸ハウス・シーンを代表するDJとして、海外でも人気が定着した観のあるマーク・ファリーナ。ただ、彼はハウスの都・シカゴ出身。ハウス・ミュージックがシカゴから世界へと猛烈な勢いで伝播してゆく様を体験した後、デトロイトの動きに同調し、幼稚園時代からの知り合いというクリス・ナズカ、及び同じくシカゴ出身でワールドワイドな人気では一歩先行くデリック・カーターとの共作となるシンボルズ&インストゥルメンツ“Mood”(89年)でデビューしている。
「デリックがすでにトラックを作っていて、みんなの音楽的なテイストも近かったから実現したと思うよ。たまたまKMSがグループを募集してたってのもあったんだけどね」。
90年代初頭にシカゴとの往復を2年ほど繰り返した後、「当時キテた」というサンフランシスコへ。
「無数のプロモーターがパーティーを主催していたよ。とりあえず仕事はいっぱいあったね。(DJでは)ハードキッス、ウィキッド・クルーのイェノ、サイモン、DJダン、アーニー・マンソン、マーキーたちが凄く人気だったよ。かかっていたサウンドはファンキーでアップテンポなブレイク・ハウスとプログレッシヴでムーディーなテック・ハウスとかかな」。
やがてオムでの〈Mushroom Jazz〉シリーズ、またはインペリアル・ダブなどからリリースしたいくつかのミックスCDで、彼の指向性とスキルは未踏の地である日本や欧州にも紹介されてゆくこととなる。ちなみに〈Mushroom Jazz〉はマークがシカゴにいた頃、当時のアシッド・ジャズ・ムーヴメントの音を聴いているうち、もっとオーガニックな方向性を打ち出そうとテープから始めたものだそうだ。一方で彼のルーツとなる音楽は、クラフトワークからフロント242、ニッツァー・エブらボディー・ビート、イエロー、デペッシュ・モードまでのエレクトロ。そしてフェイヴァリットDJがジャジー・ジェフ……これらの背景と、DJとして培ってきたキャリアの集大成となるのが、今回リリースしたファースト・アルバム『Air Farina』だ。
構想/制作には8か月という(一見すると短い)期間を費やし、空港や旅をテーマに、DJとして忙しく世界を駆けめぐる生活のなかからヒントを得たであろうコンセプトをもとに、彼の大箱プレイ時、クラウドをジワジワとエクスタシーへと導く十八番のテック・ハウス寄りのトラックが中心となっている。また、マークと共通した嗜好/出自を持つオムのA&R/クリエイター=カスケイドとの“To Do”、そしてレーベルメイトであるピープル・アンダー・ザ・ステアーズをフィーチャーした“Travel”のようなジャジーなダウンテンポなどが詰め込まれ、ユルいポップさが全体に漂ったコンセプチュアルなアルバムとなった(彼のオフィシャル・ウェブサイト〈www.markfarina.net〉がコンセプトをヴィジュアライズしているので、要チェック!)。そう、DJとしてだけでなく作り手としても、マークはいまサンフランシスコ・アンバサダーとして、当作を名刺代わりに旬の空気を世界に提供する。
▼マーク・ファリーナのミックス/コンピ作品。

『San Francisco Sessions』(Om)