ゆったりとしたその音楽性と歩調を合わせるかのように、日本でもジワジワと浸透し認知度を高めつつあるアメリカ西海岸のハウス・シーン周辺。現在活躍しているアーティストたちのなかでも、古くから活動をはじめ、貫禄を放っているのが、サンシャインとムーンビーム・ジョーンズを中心とするユニット、ダブトライブ・サウンド・システムだ。待望の新作『Baggage』は前作『Bryant Street』から3年ものブランクを挟んでいる。
「『Bryant Street』のための長いツアーがやっと終わって、『Baggage』のベースになるものに取りかかろうとした時に、ムーンビームが妊娠していることがわかったんだ。だから、この3年は小さな息子を育てながら、ハウス・ミュージック全般をもう一度聴き直したりして過ごしていたんだよ」(サンシャイン:以下同)。
子供が生まれた彼らは、子育てを通じて自分たちや人間というものを知り、またお互いに距離を置くことで、2人の音楽的な関係を見直す作業にまで踏み込んでいる。
「2人で共同作業するやり方で作っていたこれまでとは違って、今回のアルバムはもっと僕個人が反映されていると思う。僕はいつでもチームの一員だったし、いつでも誰か他の人といっしょにやるのがあたりまえだった。過去から離れて現在を受け止め、前へと進むことは簡単じゃなかった」。
こうして子供の誕生に深く影響された新作は、彼らが持っていた制作のプロセスにも大きな変化をもたらす一方、サンシャインは今回のレコーディングで、想像もしなかったような試練に立ち向かう。
「曲を書いたりする作業もほとんどスタジオでやったんだけど、それって初めてのことだったんだ。それまではある程度曲の形ができたら、納得するまでツアーでプレイしてからレコーディングしていたから。でも2001年の“Do It Now”の評判が良かったこともあって、そのコンセプトと制作方法をベースにしてアルバムを作ろうと考えたんだ。それに今回のアルバムではライヴ・インストゥルメンツもたくさん使った。演奏は全部僕がやったんだ。コンガもベースも、アルバムの大部分は僕の演奏なんだよ。それに今回は僕も歌ったんだ」。
歌は通常ムーンビームの担当だが、官能的な彼女に負けじと、サンシャインも穏やかで優しく語りかけるような歌声を披露し、ディープなハウス・サウンドへと見事に溶け込ませている。そのヴォーカルが作る雰囲気も手伝って、今作はアルバム1枚がひとつのコンセプトをなぞっていくかのように進み、目の前で物語が展開されていくように流れていく。
「いままで僕は何年も、アーティストとしての自分というものがあまりちゃんと伝わっていないことを感じてはいても、諦めているところがあったんだ。だからこのアルバムをちゃんと聴いて、そうやって感じてくれたということだけでも、僕はすごく嬉しいな。新作はアルバム・タイトルとレコードのトーン、それから歌詞がすべてを物語っていると思うよ」。
最後に、ダブトライブといえばやはり野外パーティー。いままでで最高のパーティーは?
「ボルティモアの〈サンライズ・フェスティヴァル〉しかないな。あれはウルトラワールド・プロダクションズのロニー・フィッシャーの復活だったんだ。彼はそれまで警察に街を追い出されて、殴られたりしていたんだ。パーティーのテーマはドラムンベースで、僕らはセカンド・ステージでハウスをプレイしていた。でも、パーティーに参加した全員がハウス・エリアに殺到したんだよ。それに応えて僕らも最高のプレイをしたね。あれは奇跡のような時間であり、ロニーとハウス・ミュージックの勝利の瞬間だったよ!」。
▼ダブトライブ・サウンド・システムの作品。